母乳育児という言葉を問い直す 10 <おしゃぶりと卒乳の類似点>

1ヶ月前後ぐらいまでの新生児期で、ミルクをあげている場合の悩みが「飲み終わったのにぐずっている」「まだ3時間たっていないのに欲しがる」といったあたりかもしれません。



ミルクをあげすぎてもいけないからと、このあたりでお母さん達はいつのまにかつくられた赤ちゃんのイメージが思い浮かんで、「そうだ、おしゃぶりを使ってみよう」と思われるようです。
そして赤ちゃんはひとりでおしゃぶりをくわえて、くちゅくちゅと静かにしてくれるだろうと。


ところがこのくらいの時期は、おかあさんがおしゃぶりから手を離すと赤ちゃんは「ペッ」と吐き出して、なかなか自分で吸い続けてくれないことも多いようです。


なぜかというと、飲み終わってからしばらく胃や腸が活発に動いている間は浅めにくちゅっくちゅとしていたいのだと思います。
おっぱいでも「もうはずすかな」と思うとまた巻き込んでくちゅくちゅして・・・を繰り返しながら、あるところでぺっと出して吸うのを止めますね。


腸蠕動が活発な間は、舌先ぐらいでくちゅくちゅと落ち着くのを待っているのでしょう。
ですからおしゃぶりの場合には、大人が手を離すとすぐに口からはずれてしまうぐらいの浅さでくちゅくちゅしているのではないかと思います。


月齢とともに、おしゃぶりの巻き込み方や、赤ちゃんがそれを必要とする目的も変化して行くのでしょうね。
以前、1歳ぐらいの赤ちゃんが、泣きそうになったら服にぶら下げてあったおしゃぶりを自分で口に入れたのをみて驚いたことがあります。
その使い方がよいのかどうかはわかりませんが、なんと成長するのだろうという驚きでした。


あの行動は、母乳栄養児であればおっぱいであり、離乳期を過ぎたりミルクが中心であればおしゃぶりなのだろうと思います。


断乳」「卒乳」は、ミルクで育っている赤ちゃんにすれば「おしゃぶりをいつやめるか」と同じなのではないでしょうか。


<「おしゃぶりについての考え方」>


日本小児歯科学会のサイトに「おしゃぶりについての考え方」があり、乳児期から幼児期の発達の視点からみた考え方がわかりやすく説明されています。


その中の「4.おしゃぶりの利点と欠点」を紹介します。

 明確な根拠はないが、一般的に言われている歩き始めから2歳過ぎまでのおしゃぶりの使用の利点と欠点をまとめてみた。
 利点としては精神的安定、簡単に泣き止む、静かになる、入眠がスムーズ、母親の子育てのストレスが減るなどが挙げられている。

このあたりは、1歳以降もおっぱいを吸わせているお母さんたちの思いとかなり共通したものがあるのではないかと思います。

 おしゃぶりの宣伝に使用されている「鼻呼吸や舌や顎の発達を促進する」は現時点では学問的に検証されていない。
 欠点としては習慣性となりやすく、長期間使用すると噛み合わせが悪くなる。子どもがどうして泣いているのかを考えないで使用する、あやすのが減る、ことば掛けが減る、ふれあいが減る、発語の機会が減るなどが挙げられる。

そういえば十数年前ぐらいにその鼻呼吸によいといった話を耳にして、本当にそんなことがあるのかな、人類ずっとおしゃぶりなんてなくても鼻呼吸をしてきたのにと思ったことがあります。
でも、たぶんおしゃぶりを使うことの罪悪感を減らしてくれる言葉が求められているということかもしれません。
そしてそれは、おっぱいを長く飲ませている人たちも同じなのではないでしょうか。



さて、以下の部分が大事だと思います。

5〜6ヶ月以降の乳児はなんでも口へもっていってしゃぶる。これは目と手の協調運動の学習とともに、いろいろのものをしゃぶって形や味、性状を学習しているのである。おしゃぶりを使用していると、手で掴んでも口へ持っていくことができず、このような学習の機会が奪われることになる。親の働きかけに対する声出しや、自分からの話もできない。おしゃぶりは一度使用すると長時間にわたり使用する傾向があるので、発達に必要なこのような機会が失われることが気になる。しかし、おしゃぶりが愛着形成を阻害するという意見については学問的根拠はない。

「おしゃぶり」を「おっぱい」に置き換えても、そのまま意味が通じると思います。


<乳幼児の成長・発達の全体像を見失わせない>


同じサイトの「歯からみた幼児食の進め方」の最後の部分にも大事な事が書かれています。

離乳食から固形食に変わっていくときには、お口の中を見てあげてください。(中略)
「何ヶ月になったからこんな食べ物を与える」のではなくて、「この歯が生えて食べられるようになったからこんな食べ物を与える」ようにしてください。


前述の「おしゃぶりについての考え方」の2では、「おしゃぶりの使用は3歳ぐらいになると急激に減少する」とあります。
これは、おしゃぶりのように母乳を吸っていた子どもたちと似ているのではないでしょうか。


「離乳」あるいは「断乳」「卒乳」をただ単に母乳をどれくらいいつまであげるか、あるいはお母さんがいつまであげたいかという視点だけにお母さんたちの意識を向けさせてしまうと、赤ちゃんの成長・発達という全体像を見失わせてしまう可能性があるのではないかと思います。


こういうことを考えて行くと、WHO/UNICEFの「2歳までは母乳を」というスローガンはやはり偏った視点のように思います。



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