母乳育児という言葉を問い直す 11 <母乳とむし歯>

先日の記事にべべごんさんからいただいたコメントにこんなことが書かれていました。(べべごんさんありがとうございます)

昔は小学生ぐらいまで飲んでた子もいたのよ〜なんて聞いた事もあったり、歯医者さんには寝るとき飲むと虫歯になるから早く止めた方がいいと言われたり、本当に外野がうるさい〜と思いました(・・)。


30年ぐらい前でも「大臣になったり大成した人ほど小学生ぐらいまでおっぱいを飲んでいた」という話を聞いたことがあります。へえー、そんなもんなのだと印象に残りました。
「昔とはいつか」と考えるようになって、こうした言説の元は断乳したくないお母さんたちの方便だったかもしれないと思っています。


さて、べべごんさんのコメントでは歯医者さんのアドバイスも「外野」になっていたので、ちょっとおもしろいなと感じたのでした(べべごんさん、すみません)。


いえ、日々、助産師としての私の説明もおかあさんたちの受け取り方によっては「いいことを聞いた」と「余計な一言」になる可能性は感じています。
たとえばトコちゃんベルトについて質問された時に、「恥骨痛や腰痛がある時の固定としては使いやすいかもしれませんが、それ以外の考え方は整体の独自のものなので検証されたことではありません。ベルトも高いものでなくても大丈夫」と説明するとホッとされるかたと、信じたことを否定されたという両極端の反応になります。


検証されていることといないこと、あるいはメリットとデメリットの説明というのは、聞き手には味気もそっけもないのでしょうね。


あるいは自分の気持ちを肯定してくれるかどうかというあたりでしょうか。



<「母乳とむし歯」医学的な考え方のまとめ方>


昨日の記事で紹介した日本小児歯科学会のサイトに、平成20年に小児科と小児歯科の保健検討委員会が出した「母乳とむし歯ー現在の考え方」があります。


その冒頭の文章に、いかに医学的知識は「外野」にされやすいかという葛藤が表れていました。

平成16年に「母乳と虫歯ー現在の考え方」と公表したが、これに対し多くの意見が寄せられた。そこで委員会では最初に公表した考え方と寄せられた多数の意見をもとにして、母乳とむし歯の関係をより明確にすると共に、母乳を与えていてもむし歯になりにくい方法で母親のストレスとならないような現実に即した考え方に修正した


平成16年の修正前のものは手に入らないのでどのように変わったのかはわからないのですが、いろいろと苦労がわかる文章だと思いました。

母乳を飲むときは舌を突き出し、乳首を上顎に押し付けてしごいて飲むので、上の前歯に母乳が付着しやすい。したがって飲みながら眠ると母親が上の前歯の周囲に停滞し、しかも夜間には唾液の分泌が減少するのでむし歯になりやすい。
一方、下の前歯は舌で覆われているので母乳の付着は少なく、さらに唾液によっても洗い流されるので、むし歯になりにくい。

理論上は授乳後に毎回歯を磨く状況であれば夜間に母乳を与えても安心であるが、子育ての実際にあたっては難しい。

「母乳を与えていてもむし歯になりにくい方法」というのは飲ませたら歯を磨くしかないわけですが、ぐずっている時に寝付かせるために母乳を与えているわけですから、お母さんにすれば受け入れられない話でしょうね。


歯科医の先生方の苦悩が最後の一文に書かれています。

子育ての現場では理論(むし歯予防)と実際(子育て)がいつの時代にも平行線をたどり、今日に至っている。
混乱している例のひとつとして、たとえば乳歯はやがて生え変わるからケアの必要性がないと言われるが、小児歯科の立場からは正しくない。
乳歯と永久歯は、一度に生え変わるわけではないので、乳歯がむし歯になるような悪い口腔内状態では、新たに生えてくる永久歯もすぐむし歯になる可能性が大きいからである。

小児歯科の先生はできるだけ良い歯と口腔内環境を子どもに与えたいという視点であり、でも実際の生活では寝付かせたり、子どもの精神的な安定あるいは母親の気持ちから母乳を長く吸わせる事も否定できない。


医学モデルと社会モデルの葛藤というところあたりでしょうか。





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