ヒメオドリコソウ

ここ10年ぐらいで、初めてその存在に気づいて名前を知った植物にヒメオドリコソウがあります。


その辺の空き地にはどこでも生えていそうなのに、なぜこんなにきれいな色のグラデーションに気づかなかったのだろうと、なんだか人生の時間を無駄にしたような気持ちになったのでした。


春先に少し気温が上がり始めた日が続くと、この植物も「スクスクっ」と一晩でぐんぐんと頭角をあらわしてきます。


そして先端の紫がかった部分とピンク色の部分が重なり合いながら、数日間かけて何層もの色になり、そして緑の葉へとつながっていきます。



何十本も群生していることが多いのですが、そのあたりだけ小宇宙のような別世界を感じます。
冒頭でリンクしたサイトでは、「びっしり群生すると、まるで兵馬俑のような人の整列した姿に見える」と観想が書かれていて、感じ方もそれぞれでおもしろいですね。


「紫がかった部分とピンク色の部分」もさらに色が変化していく葉と花とで構成されています。
手元にある「散歩で見かける四季の花」(金田一氏、日本文芸社、2014年)では、「茎の先の葉のわきに淡紅色の花が多数つき、葉の間から四方に向かって咲く。葉面にしわが多く、茎の上部につく葉は赤紫色を帯びてよく目立つ」とあります。


なるほど、シソ科なのですね。あの紫色を帯びた葉の美しさは。


その本では、「ヨーロッパ原産の帰化植物」「明治時代に東京で発見されて以来、春の野を代表する花のひとつ」と書かれています。


この世には美しいものがたくさんあるのに気づかないものですね。


ただこの「春の野を代表する花のひとつ」も、見る人によっては別のものになるようです。
国立環境研究所の「侵入植物データーベース」に掲載されています。


「侵入年代」は確かに明治時代に東京で発見されたようで、「1893年に東京駒場で記録あり」と書かれています。
そして「在来種、畑作物との競合、数種の虫、菌、ウイルスの発生」という影響があり、「防除方法」として「抜き取り、刈り取り」とあります。


どこからどうやって日本の土にたどり着いたのでしょう。
「こんな草は見たことがない」と気づいた人はどんな人だったのでしょう。
誰がこの名前をつけたのでしょうか。
時に邪魔な雑草とされ、でもその愛らしさに魅かれる人を増やしながら日本に根付いた一世紀は、どんな感じだったのでしょうか。


知りたいと思ってももう、事実は過去の時間に埋もれてしまったことばかりですね。