記憶についてのあれこれ 74 <夜間の救急対応>

タカ派の麻酔科医さんのコメントへのこちらの返事で、1980年代に私が勤務した総合病院では「夜間救急入り口」はあっても「救急外来という部署はなかった」と書きました。


その意味のひとつは、実際に建物の構造上「救急外来」という独立したスペースが院内にありませんでした。
夜間の急患は「夜間救急入り口」から入ってもらい、外来のそれぞれの診療科の部屋を使って対応していた記憶があります。
「この症状なら内科外来で診察しよう」「この症状なら整形外科外来の方が必要な物品がそろっている」といった感じでした。


1990年代に勤務した病院、いずれも1980年代に入って新築した病院には、「救急外来」のスペースがあらかじめ設計されていて、平日の診療時間内は使われず、夜間・休日の救急患者にそこで対応していました。


もうひとつの意味は、1980年代に勤務した総合病院では、内科系・外科系ともに夜間の緊急入院の対応をした記憶が少ないことです。
夜勤というのは、基本的に入院患者さんの対応が主で、ごくごくたまに夜間の入院患者に対応していたくらいだったように記憶しています。


1990年代に入ると、夜間の緊急入院対応の記憶がとても多くなります。


夜間・休日に救急外来から病棟へ入院依頼がくると、通常業務を置いてもそちらに対応しなければいけないので本当に大変でした。
夜間・休日というのは基本的に看護師は2人ですから。


時には一晩で2人、3人の救急外来からの入院患者の受け入れがありました。
たまたま空床(くうしょう、空きベッド)がある病棟は、いつ入院依頼がくるかと戦々恐々としていました。


夜間救急患者というのは患者さんの情報も把握できていないし、十分な検査もできず治療方針もまだ明確でないので、受け入れる病棟スタッフ側にとっては通常の業務の比ではない心身の負担があります。
そのため救急外来で一晩対応し、翌朝病棟へ転棟させる「オーバーナイト」という体制をとっていた施設もありました。


1980年代のほうが昔の記憶で忘れてしまったわけではなく、病院での夜間の救急対応数が増えたことはたしかだと思います。
このあたりの記憶はどこまで正確なのだろうと気になり、少し検索してみました。


2011年以降に出されたものと思いますが、「救急搬送の将来推計」という総務庁消防庁の資料に、「人口総数と救急搬送活動の将来推計」(p.170)という図があります。
それを見ると、1980年の救急出動件数は約200万件、搬送人員は192万人なのに対して、2010年ではそれぞれ546万人、497万人と倍以上の増加です。


救急出動件数が増加した要因についてその資料のp.164では、「高齢者の傷病者の増加」「熱中症の傷病者の増加」「緊急性が低いと思われる傷病者の増加」などがあげられています。


10年以上前に総合病院の救急外来の管理当直をしていた時はまだ熱中症は少なかったのですが、高齢者の増加と緊急性が低いと思われる救急車利用が大半を占めていました。


救急車による受診以外に直接来院される患者数はさらに多いのですが、「昼間は仕事で受診できない」「酔って捻挫した」「数日前から調子が悪かった」など、病院に24時間の対応を求める雰囲気が出始めたのが1990年代だった印象があります。


1980年代の病院の夜は、今思えばまだまだ平和な時代だったなあと。





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