帝王切開について考える 15 <再び、こんさんのコメントより>

初めてこんさんからコメントをいただいた時に、わたしはこうたろう君のことを思い出しました。


こうたろう君は、こちらの記事で紹介したように、分娩台でおっぱいをあげている最中に呼吸停止となったようです。

助産師が肌着一枚の赤ちゃんを連れてきて分娩台で右を下にして横たわっている私に抱かせました。抱くというよりは、右腕に載せて、胸に顔を載せるような感じに。

いわゆる「カンガルーケア」や「早期母子接触」といったイデオロギーが背景になくても、私も分娩室で赤ちゃんが吸いたそうなら授乳をしていますから、こうたろう君のことを知った時には目を離していはいけないと気がひきしまりました。


こうたろう君のことから私たち産科スタッフが真摯に学ぶとしたら、「分娩直後などお母さんが十分に動けない時期で赤ちゃんもまだ十分に観察が必要な時期に側臥位で授乳をさせる時には、児の呼吸を妨げないように注意深く行う必要がある」「スタッフは側を離れてはいけない」ということだと思います。


あの時にこの本質的な部分だけがきちんと全国の分娩施設に徹底されていたら、もしかしたらこんさんの赤ちゃんは守られたのではないかと無念でなりません。


<こんさんの手術直後から19時間までの様子>


こんさんは事故当時のことを思い出すだけでもお辛いと思いますが、状況を教えてくださいました。


2015年6月28日にくださったコメントではこのように書かれています。

先日病院と話しまして、私のケースは帝王切開後に側臥位で授乳させようと赤ちゃんが二の腕と胸の間に置かれたのですが、私が朦朧としてうまく授乳できなかったためそのまま看護師さんが一旦離れ、私は暗い部屋で大泣きする赤ちゃんの頭頂部から目を離さないよう眠気と戦っていたのですが疲労が強すぎて遂に眠ってしまい、脱力した腕と腕の間に首が挟まって窒息したのが原因のようでした。看護婦さんは私も赤ちゃんも元気そうなので、ナースコールがあるまでは見守りは不要と思っていたそうです。


なぜお母さんが分娩直後あるいは手術直後で身動きができない時の授乳には注意が必要なのか、こんさんのコメントの中にとても大事なことが書かれています。


そうなのです。
お母さんが横向きに寝て添い寝授乳をしようとすると、特に赤ちゃんに初めて接するような初産婦さんの場合、首のすわっていない赤ちゃんは前のめりになって窒息しやすい体勢になります。
ところが、お母さんからは赤ちゃんの頭の部分しか見えないのです。
赤ちゃんの顔色さえ見えないこともあります。
静かになったら「眠った」と判断してしまうこともあるでしょう。


だから、絶対にスタッフは側を離れてはいけない。
反対に、スタッフが側にいられないほど余裕がない時には、出産直後の授乳を見合わせる必要があるということだと思います。


<こうたろう君が事故にあった時の状況>


「カンガルーケアを考える」でこうたろう君について紹介した時には、そのサイトをリンクすることがためらわれたのは、人工呼吸器を装着したこうたろう君の写真を大事にしたかったという理由です。


こちらの記事の<強い感情は、新しい世界への扉>で書いたように、出産だけでなく世の中の悲惨な出来ごとや闘病している方々の姿などは、見る人に強い感情をもたらします。
でも、往々にして「自分が正しい位置にいる」ことを確認したい方向へと向かわせて、本当に大事なことからは離れていきやすいのではないかと思えるのです。


でも、今回はあらためて「がんばれ こうたろう」をご紹介したいと思います。


産後すぐのカンガルーケアの直後に異変が!
突然ぐったりとして、動かなくなったのです。
近くにいた助産師に「動かないんですが大丈夫ですか?」と聞いても助産師は、子供を診ることも無く「大丈夫ですよ〜」の返事。
しばらくして「腕も白く爪も紫色なんですが、本当に大丈夫なんですか?」と聞いても、また子供を診ることも無く「そういう御子様もいるので大丈夫ですよ」っとの答えしか帰ってこず。
その後、母親は非常に心配ながら何度も何度も「本当に大丈夫なんですか?」っと聞いても返事すらありませんでした。
実はこの時、分娩室は無人の状態だったのです。


「スタッフが側を離れない」
こうたろう君の事故から学ぶ唯一の教訓であったはずが、その後迷走していくようすがそのサイト内の「"三日分の弁当説"は正しいのでしょうか?!」に書かれています。


そして今、こんさんの赤ちゃんがこうたろう君と同じように人工呼吸器をつけながらこの時間を生きています。


何かが間違っているとしか、私には思えません。