帝王切開について考える 14 <帝王切開術後の「周囲への無関心」の時期>

手術後の回復過程として術中から2〜4日ぐらいは「周囲への無関心」になる時期があることは、まだ「第1相傷害期」という言葉を看護の中では聞いたこともない30年ぐらい前でも、患者さんたちをみて経験的に感じていました。


手術直の様子についてはこちらの記事でも書きましたが、声をかけてもうなずくどころかうっすらと目を開けるのか精一杯だったり、「もう誰とも話したくない。一人にしておいて欲しい」という雰囲気があります。
あるいは手術の前はとても社交的だったり礼儀正しい方でも、術後は早期離床のために体を動かす介助をしても自分の辛さのほうが大変で、さまざまな感情を私たちにぶつけてきます。


手術直後の患者さんの特徴が観察されて、「第1相傷害期があり、周囲へも無関心になる」時期があることが一般化されたことは科学的な方法論によって看護が広がったといえるかもしれません。


その「周囲への無関心」の時期について、帝王切開術の場合には他の外科手術にはない違いがあります。


手術を受けた本人以外に、その手術によって生死が決まるもうひとつの存在(新生児)がいることです。


経膣分娩でもそうですが、どんなに疲労困憊しても「赤ちゃんは大丈夫ですか?元気ですか?」ということを確認しようとします。時には言葉にはならなくても。
ですから手術後の児との対面では、一見、無関心のようなお母さんも本当は赤ちゃんが元気であることを知っただけで十分という気持ちなのだろうと理解しています。


手術当日の夜中や朝方になると、「赤ちゃんはどうしていますか?」とほとんどの方が尋ねます。
そういう時には、できるだけ赤ちゃんを連れて行くようにしています。顔を見ただけでも本当に安心されるようです。


ちょうど赤ちゃんもおっぱいを吸いたそうなタイミングなら授乳を介助しますが、「赤ちゃんの顔を見て満足」という感じなら、そのまままたお預かりします。「いつでもまた会いたくなったら声をかけてくださいね」と。


また、帝王切開の場合、生まれて来た赤ちゃんも状態が悪いこともあります。
すぐに点滴などの治療が始まったり、場合によっては新生児搬送で別の病院にお願いすることもあります。


特に赤ちゃんが別の病院に搬送された場合には、私たちもご家族からの連絡をまたないと赤ちゃんの状況はわかりません。
そんな状況でもほとんどのお母さんたちは静かに、本当に静かに赤ちゃんのことを案じていることが伝わってきます。帝王切開直後で、寝返りさえも一人でうてないような状況でも。




他の手術の術後の患者さんと比べたら、帝王切開の術後のお母さんたちというのは「周囲に無関心」になるほど体に侵襲を受けた直後でも無関心ではいられない存在があることが特徴なのだと思います。


それが元気な回復を後押ししてくれることも多いのですが、時には休みたくても休めない、他の手術とは違う状況へと追い込むことにもなります。


それが「赤ちゃんのため」「赤ちゃんに優しい」となると、なおさらなのでしょう。


「今は自分のことだけで十分ですよ」というのが、帝王切開術の「第1相傷害期」の看護の基本なのではないかと私には思えるのです。


次回からは、術後のお母さんが自分のことだけで精一杯の時期から始まる「母乳育児支援」についてみていこうと思います。