帝王切開術後当日から、夜間でも手術後のお母さんを起こしてまで授乳をする施設があるのは、どのような考え方があるのでしょうか。
「助産師だからこそ知っておきたい術前・術後の管理とケアの実践 帝王切開のすべて」(ペリネイタルケア2013年増刊号、メデイカ出版)に、「母子同室、母子分離の場合の母乳育児支援」(p.267〜)という章があります。こちらの記事と同じ施設の方が書かれたものです。
内容を読むと、帝王切開術でも基本的には「母子同室」が勧められているようです。
「母子分離」というのは、赤ちゃんをスタッフに預けるという意味ではなく、早産や児の状態が悪くてNICU管理になっている場合のことですから、「新生児室に預けながら」という選択は最初から想定されていないようです。
<「母子同室の場合の支援」より>
当センターでは帝王切開で出産した場合も、母子同室を行っている。開腹による創痛は帝王切開独特のものであるが、母親は児と一緒にいることや授乳を行うことによって疼痛が緩和される。
痛みが強いときや鎮痛薬での入眠時など、必要時には授乳間はスタッフステーションで一時的に児を預かる。表に当センターにおける一般的な産後ケアをまとめた。
表を見ると、手術当日から「児の空腹時の欲求のサインをスタッフがキャッチする。母親にその様子を示し、授乳を促す。おむつ交換、授乳のセッティングはスタッフが行い、授乳中の母子を見守る」とあるので、当日から何回も「授乳」が勧められているようです。
術後2日目になると、「疼痛の訴えや育児行動の拡大にやや個人差があり、支援の必要な範囲を見極める必要がある。また頻回な授乳になるため、児のペースに自分の身体がついていかないと感じる事もあり、精神的サポートも重要になってくる」としつつも、「母親の日常生活動作(ADL)」は「自立して行える」という判断のようです。
「母親は児と一緒にいることや授乳を行うことによって疼痛は緩和される」
私はこう断言できるほどこの一文に対する根拠はわからないのですが、たしかに他の外科系の手術に比べれば、「赤ちゃんのために頑張ろう」という気持ちになる帝王切開の特殊性かもしれません。
ただ、それは身体の不調を精神力で補っている、つまりどこか無理をしている状態だと私には見えるのです。
そのあたりは、こちらの記事」の<「赤ちゃんが痛み止め」・・・でも>に書きました。
また縫合部痛が強い方への標準的看護もないで書いたように、経膣分娩の創痛でさえ私たちは全体像がわからないままです。
帝王切開の術後の痛みとはどのようなものなのかもまだまだ私たちはわかっていない状態で、「疼痛は緩和される」と言ってしまうのは、看護側の思い込みではないかと私には思えるのです。
<「愛着形成の支援に取り組む意義」>
赤ちゃんがNICUに入院している「母子分離の場合の支援」では、産後6時間以内から搾乳を開始し3時間ごとの搾乳をすることで母乳分泌量が増加すると、3時間ごとの搾乳を勧めていることが書かれています。
帝王切開後3日ぐらいすると、それまで授乳回数が1日に2〜3回の方でもちゃんと出始めることは多く経験しています。
つまりは「それをしてもしなくてもあまり変わらないのでは」と思うようになったことは「吸わせれば出る・・・のか」に書いたのですが、「刺激をすれば出るようになる」という考えは産科スタッフに根強いようです。
さて、そこまで帝王切開術直後から「母乳育児支援」をする理由は何なのでしょうか?
「愛着形成の支援に取り組む意義」として、以下のように書かれています。
帝王切開率は全国的に上昇しているといわれている。また、虐待など親子関係をめぐる社会的問題も日常化する傾向にある。従って、帝王切開時の母子の愛着形成支援に取り組む意義は大きいと筆者は考えている。
根拠らしい説明はこの一文だけです。
なんだか「親子関係」への根強い不安から、一つの仮説にすぎなかった1970年代の母子相互作用という言葉にいまだに引きずられ、相関関係も因果関係もはっきりしていないのに、お母さんたちに押し進めてしまっているのではないでしょうか。
「母乳育児支援」って何でしょうか?
「母乳育児という言葉を問い直す」についての過去記事はこちら。
1. 「『母乳育児』という言葉が使われ始めたのはいつ頃か」
2. 「『母乳育児』の定義はない」
3. 「離乳食と『補完食』」
4. 「母乳育児のための『補完食』」
5. 「補完食とカップフィーデイング」
6. 「補充食を食べさせる混合哺育」
7. 「『断乳』と『卒乳』」
8. 「卒乳・・・より長く飲ませる方向へ」
9. 「断乳と卒乳、そして乳離れの境界線」
10. 「おしゃぶりと卒乳の類似点」
11. 「母乳とむし歯」
12. 「2歳までの母乳育児推進とむし歯の関係」
13. 「妊娠中の授乳」
14. 「タンデム授乳」
15. 「1960年代の母子手帳より」