助産師と自然療法そして「お手当て」 49 <誤った認識を広げた責任>

感染症パーティー」の存在を知ったのはたしか2009年頃、 kikulogのコメント欄でした。


それまでは、「麻疹や水ぼうそうなどは、予防接種よりも自然にかかった方が免疫が強いらしい」ぐらいの誤った認識がまだまだ社会の中にあることは聞いたことがありましたが、「発症した他の子供にわざわざ合いに行って、積極的に自分の子供にうつしてもらう」という人たちがいるというのです。


たしかに医療従事者の私でも重篤な小児感染症の子どもを看護した経験がないくらい小児感染症にはうといので、麻疹や水ぼうそうで自分の子どもや他の家の子どもが亡くなったり、重篤な合併症で苦しむことになることを実感できる人がほとんどいないのかもしれません。


それでも産科病棟に勤務していると、妊娠中や出産前後にお母さんや御家族がこうした小児感染症にかかることが時々あって、その対応には本当に緊張させられるものです。


ただ「感染症パーティー」の話を初めて聞いた時には、おそらく「そんな馬鹿なことを」と自然と社会の中で消滅していくだろうと思っていました。


昨日紹介した記事はたまたま知ったのですが、わずか数年もしないうちに、2013年には出版社のサイトでこの「馬鹿げた話」がまことしやかに紹介されていることに驚きました。


そして「水ぼうそう」で検索をしてみると、「初ママ育児」というサイトに2015年3月14日づけでこんなことが書かれています。

「このポツポツもしかして・・・!」
乳児湿疹が落ち着いて、スベスベの赤ちゃん肌になったのもつかの間。水疱瘡のワクチン接種を受けていない3歳までの子どものほとんどが水疱瘡にかかると言われています。


水疱瘡は一時的なもので時間とともに治るもの、と考えられていますが、まれに重い合併症が起こることも。
また、感染力が強く、人から人へとうつりやすい病気です。

その特徴から、数年前まで多くの人が、水疱瘡は「うつしあう」ものと考えていました
水疱瘡は一度かかると免疫がつくため、わざと患者と接触してうつしてもらい、免疫をつけようとするのです。
(私の母も、その頃同じアパートに住んでいた子が水疱瘡にかかったと聞き、兄を連れて行ってうつしてもらったそうです。そして兄から母へうつり、それが私にうつりました・・・(泣)。


このサイト自体は水疱瘡ワクチン接種を勧めているのですが、「数年前まで多くの人が、水疱瘡は『うつしあう』ものと考えていた」と書かれた部分に驚いたのでした。


もしかしたら、この方が見た範囲ではそういう人がたまたま多かったにすぎなかったのかもしれませんが。


<背景にある自然療法の広がり>


さらに「水疱瘡」で検索していくと、2007年から2008年前後に、水ぼうそうにかかった我が子をマクロビやホメオパシーといったお手当てで治したブログがいくつも出てきます。


「美味しい!楽しい!続けてみたいマクロビオティックな生活レシピ集」というブログでは、4歳と1歳の姉妹の水ぼうそうを「薬などは使わず、自然療法で治しました」と2007年頃の記事がありました。
対応方法としては、「発疹に、びわの葉のせんじ汁をつける」「野菜スープ、玄米スープを飲む」などと書かれています。


「こりすのつぶやき」というブログでは、「ホメオパシーは、怖くてなかなか手が出ない」と「ビワエキススプレー」と「玄米菜食」「玄米クリーム」などで対応していました。
そしてこんなことも書かれています。

この間自然育児の雑誌で真弓貞夫先生の記事を読みました。
完全母乳とは、母親に牛の血が入っていないもの(牛乳乳製品ですね)。
入っているものは完全母乳に比べて免疫が低い、と

おお、これなら私は一切とらずに授乳したから、完全母乳!
免疫が強い、と言うことなのかなあ。


2007年頃の私は、毎日接していた産後のお母さんたちが退院したあとに、こんな世界が広がっていることにも気づいていませんでした。


さて、昨日の記事で紹介した方の「始まりのとき」には、「娘は2008年の9月に世田谷の助産院で生まれました」と書かれていました。


あ〜あ、やっぱりという感想しかありません。


おそらくじわじわと助産師、特に開業助産師の中で自然療法や特殊な価値観が広がり、マクロビなどを勧める助産院を好意的に広めたのが助産雑誌でした。
2010年を境に、助産所のホームページにはマクロビを掲げるところが急増したのでした。


そして、私の周囲の助産師の中にも予防接種への否定的な感情を持つ人がボチボチ出始めたのでした。


それが「数年前まで多くの人が、水疱瘡は『うつしあうもの』と考えていました」という認識を持つ人を増やすことに加担していた可能性が多いにあることでしょう。


子どものことを考えて勉強熱心で、ちょっとおしゃれで先駆的な「母になる」イメージとともに。


助産師とその雑誌の責任は重いと思いますね。





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