アドバンス助産師とは 1 <「正常なお産は助産師だけで」教>

「アドバンス助産師」について、昨日紹介した日本経済新聞6月7日の記事では以下のように書かれていました。

分娩介助100例以上、妊婦健診200例以上などの経験に加え、新生児蘇生法や分娩監視装置に関する研修の受講が条件。

認証された助産師は「アドバンス助産師」として認定され、「自律して助産ケアができる助産師」として公表することもできる。

申請者は経験年数が7年程度の助産師を想定しており、11月に800人規模でアドバンス助産師が誕生する。


「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」の12ページの表をみると、「経験年数7年」というのは微妙な時期です。


3年目までに分娩介助30例を目標にしたあと、4年目以降は「結婚、第一子出産」といったライフイベントとともに、「キャリアローテーション」として小児科・NICU、救急外来・手術室などでの経験を積むことも想定されています。


そして人によっては「第二子出産」にかかるこの7年目、31歳前後の助産師にとって「アドバンス助産師」と認証されることはどういう意味をもつことになるのでしょうか?


<「自律して助産ケアができる」とは何を指しているのか>


この「自律した助産師」という言葉については、こちらの記事で違和感についてを書きました。


また、私自身も周囲の同僚をみても皆、一生懸命に周産期医療のために働いていると思うのですが、どこからともなく「あなたたちはダメだ。本当の助産師ではない」と言われ続け、しかも「どのように自律していないのか」明確に教えてくれる団体もないことをこちらの記事で書きました。


同じ看護職の保健師・看護師では耳にしないスローガンです。


さて、この「アドバンス助産師」認証のあとに広がる「自律した助産師」像とはどのようなものなのでしょうか?


「アドバンス助産師」認証の目安となる「レベル3」について、冒頭の「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」のp.34では以下のように書かれています。

1.入院期間を通して、責任をもって妊産褥婦・新生児のケアを実践できる
2.助産外来において、個別性を考慮したケアを自律して提供できる
3.助産外来において、指導的な役割を実践できる
4.院内助産において、自律してケアを提供できる
5.ハイリスクへの移行を早期に発見し対処できる

なんで2と4だけ「自律して」が書かれているのか細かい事が気になってしまうのですが、それはさておいて、この上の「レベル4」をみるとこのクリニカルラダーを作った側の思想がはっきりと出ていると感じました。


1.創造的な助産実践ができる
2.助産外来において、指導的な役割を実践できる
3.院内助産において、指導的な役割を実践できる
4.ローリスク/ハイリスク事例において、スタッフに対して教育的なかかわりができる


私がうなずけるのは「4」だけです。


助産師外来と院内助産、やはりそこなのでしょう。


「正常なお産は助産師だけで」という思い込みの「正常」を求める思想なのだと。


さて、冒頭の日経新聞には「産科医の負担軽減」としてこんなことが書かれています。

助産師は独立して正常分娩の介助や妊婦健診ができる。医師がすべての妊婦を診察する医療機関も多いが、最近は過酷な勤務が指摘される産科医の負担を減らす目的もあり、助産師が健診や保健指導を行う「助産師外来」や助産師だけでお産を扱う「院内助産」を実施する施設が増えている。助産師外来は12年には490カ所と4年前の1.8倍、院内助産も2.6倍の82カ所になった。


2500カ所ぐらいある分娩施設で、この院内助産を実施している数字を多いと見るか少ないと見るかは立場によって違うのでしょう。


本当に妊産褥婦さんの役にたっているのだろうか、本当に産科医の負担軽減になっているのだろうか。
だって、「助産師外来」とか「院内助産」とあえて言わなくても、以前からずっと助産師に任される部分は任されてきたのに、産科医も助産師もそして産科施設に勤務する看護師さんも疲弊しているのですから。


10年ぐらい前から時々、「助産師の役割をもっと拡大しろ」という裏のメッセージが込められたニュースが定期的にあるわりには、立ち上げた企画がすべて尻つぼみになっているとしか私には見えません。


現実的でないはしご(ラダー)をかけて、周産期医療の次の時代を担う世代を誤った方向に向かわせているのではないかと不安になるのです。




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