にんにく

今年も幻想的な風景の時期になりました。
その父の面会の帰りはちょうどお昼頃になるのですが、バス停の近くにある韓国料理店から香ばしい香りがします。


ニンニクを炒めたような香りです。


この香りをかぐと、私は季節に関係なくそのまま気分は東南アジアにワープします。
真冬でも、あの熱帯の気候で暮らしていた気持ちにさせる不思議な香りです。


住んでいたその東南アジアのある地域でも、よくニンニクが使われていました。


ココナッツオイルで炒めて香りを出してから、野菜や肉を炒めてスープなどのベースにしていました。
あまった米飯をニンニク、塩だけで炒めるチャーハンは、「なるほどこの手があったか」と驚く程のおいしさで、帰国してからもご飯が残ると作っていました。


またガーリック味のピーナッツが、おやつとしてあちこちで売られていました。
市場にいくと半乾きのピーナッツが売られているので、自宅でも簡単に作れます。
ニンニクを叩いて潰して油で焦がさないように炒め、ピーナッツを入れて気長にローストします。
最後に塩を入れるだけです。


ピーナッツの美味しさもさることながら、こんがりとローストされたニンニクの美味しさは病みつきになります。



<にんにくをよく食べ始めた頃>


幼児だった1960年代前半頃はまだあまり家でニンニクが入った料理を食べたような記憶はないのですが、これは単に記憶があいまいなのだろうと思います。
ただ、小学生ぐらいになった頃からは我が家ではしょっちゅうニンニクを使っていた記憶があります。餃子に入れたり、醤油漬けにしたニンニクを刻んでチャーハンに入れたりしていました。


ところが、「食彩の王国」の『大蒜(ニンニク)』を読むと、中国では餃子にニンニクは入れないようですね。

私達日本人にとってニンニクを使った馴染み深い料理といえば、まず思い浮かぶのが餃子。ところが餃子の本場中国ではニンニクは使われていません。

この餃子が日本に広まったのは戦後のことでした。肉や野菜などの残り、手近なものを利用して作られた当時の日本の餃子には、ニンニクの持つ防腐作用と強壮作用が重要でした。また少量を、おかずとして食べる日本では、ニンニクを入れることで、強い味わいが好まれ餃子にニンニク、という関係が定着したのです。


私の家でも餃子には必ず、ニンニクが入っていました。
そして湯豆腐にも、おろし生姜だけでなくおろしニンニクをつけていたのですが、これは他の家からみるとかなり珍しがられました。


祖父母の家に遊びに行っても、ニンニクを使った料理はなくて、昔ながらの煮付けとか塩焼きとかだったような記憶があるので、両親世代(今の80代〜90代ぐらい)から日常の家庭料理にニンニクが使われ始めたのでしょうか。


あの当時、どんな感じで日本国内にニンニクの使い方が広がっていったのだろうと、時間を巻き戻してみたくなりますね。


<いつ頃から、ニンニクが広がったのだろう>


国内でニンニクの産地といえば青森県と思い浮かぶのですが、その田子町の「にんにくで街を活性化」という記事にニンニクの生産が始まった経緯が書かれていました。

 しかし、田子町でにんにくの栽培が始まったのは、昭和37年と比較的新しい品目です。
それまでの農家の収入は、稲作と出稼ぎによるものが中心で、火山灰土壌のやせた土地ではヒエ、麦、大豆が栽培され、自給自足の生活をしていました。
 このような環境を変えるべく、地域に現金収入をもたらす作物を模索していた田子町農協青年部の有志13名が、福地ホワイト6片種(青森県福地村で栽培されていた福地在来に白色種を掛け合わせて作られた寒地系品種)の種球を約20a分購入し、新しい挑戦を始めたのがきっかけです。

1962年にニンニク栽培に挑戦し初出荷が1966年ですから、それだけでもちょっと気が遠くなるような話です。


私が小学生の頃、1960年代後半から70年代にかけてニンニクをよく食べた記憶があるのは、やはりこうした生産量の増加と関係があったのかもしれませんね。
そして、もしかしたら減反政策の影響も。


<あのニンニクはなんという種類なのでしょうか>


今、店頭で売られている国内産のニンニクというと大玉でどっしりとした風格ですが、私が東南アジアで食べていたニンニクは粒が小さいものでした。


Wikipediaニンニクを読むと、「プチニンニク」という名前があったのですが、これは小さいという意味ではなくて、分球していない「一片種」の意味のようなので、それとも違います。


東南アジアで売られていたニンニクは、日本のニンニクを5分の1ぐらいに縮小したもので、1片が小指の頭かそれよりも小さいぐらいのものでした。
日本のように皮をむいてスライスするのではなく、皮ごと包丁の背でバンと叩いて潰してそのまま料理に使います。


便利だったので、帰国してからもあのミニチュアのようなニンニクを探してみたのですが、私の希求とは反対にニンニクはさらに大玉化していくかのように感じていました。


検索しても、あの小さいニンニクについて書かれたものはみつかりません。



ニンニクを炒めた香りが漂ってくると、一瞬、自分がどこにいるのか忘れてしまうような感覚とともに、あの小さいニンニクがとても懐かしく感じるのです。