事実とは何か 9 <どこでこうなるのか>

先日、胎児心拍のデーターをスマホに送信するという記事がありました。


産科に行かなくても胎児の状態把握・・・心電図データーをスマホに送る腹帯開発進む
2016年6月10日、産経・WEST



 妊婦が自宅で電極の付いた腹帯を巻き、胎児の心電図データをスマートフォンで主治医へ送るシステムの開発を、大阪電気通信大や奈良県立医科大などで作る研究チームが進めている。腹帯に西陣織の技術を応用することで簡単に着脱できるようにする計画。医師が胎児の状況をリアルタイムに把握できるようになり、産科医が不足している過疎地でも、安全・安心な周産期医療を目ざす。


 腹帯につける電極は、京都大と大手繊維メーカーが開発した導電性繊維(電気を通す繊維)を用いる。この繊維を西陣折りの技術を応用して腹帯に縫い付けることで、繊維に凹凸ができる。これにより皮膚との接地面積が大きくなって電極の役目を果たし、妊婦が腹部に巻くだけで胎児の心電図を含んだ信号を取れるという。


 この信号から妊婦の心電図データーを除去する信号処理を実施。腹帯には中継器を取り付け、心電図データを無線でスマートフォンへ送る。スマホには専用アプリをインストールし、主治医がいる医療機関へ転送する仕組みだ。妊婦は自宅にいながら、主治医による胎児のモニタリングを受けられるようになる。


胎児心拍モニタリングを送信するシステムは、こちらの記事にも書いたように、すでに以前から離島や過疎地でおこなわれています。


記事では「胎児の心電図データ」と書かれていますが、おそらく胎児心拍数陣痛図(CTG)のことだと思います。
心拍数の連続モニタリングで、心電図とは違うと思いますが。


少し前にも、離島の妊婦さんがこの送信用の分娩監視装置を自宅で使っている様子をニュースで見ました。


通常の医療機関で使う分娩監視装置は、直径8cmほどのトランスデューサーをつけるので、妊婦さんにはちょっと苦痛が大きいものです。
また、それだけ大きいトランスデューサーでもなかなか胎児心拍を拾えなくて苦労することもあるのですが、そのニュースの映像ではかなり小型化されていて装着も簡単で、心拍数もそこそこきれいにモニタリングされていました。


なんだ、そんなすごい技術がすでにあるのなら、分娩施設の分娩監視装置の小型化も実現できるのではないかというのが率直な感想でした。


そうすれば、分娩監視装置への反発も少なかったでしょうし。



さて、この記事で「どこでこうなるのか」と驚いたのは、後半の以下の部分です。

 研究チーム代表の吉田正樹電通大教授は「医療過疎地で暮らす妊婦について、主治医が胎児の異常に気づいた時点で救急車を手配することができる」と狙いを説明する。


 研究は奈良県立医大の発案で開始した。平成18年8月に同県大淀町で意識不明になった妊婦が相次いで転院を断られ、約6時間後に搬送された病院で出産したものの死亡した問題を受け、過疎地の周産期医療体制を改善するのが目的だった


 奈良県では、県立医大病院がある橿原市が、産科医が常駐する最南端。このため特に県南部では、遠隔地の産科医が、母子の異常の予兆をいかに早くできるかが課題となっている。


 研究チームは今後、安全な通信が確保できるシステムを構築したうえで、実用化に向けた実証実験を31年度までに実施する計画。早期のサンプル出荷を目ざしている。

奈良県と聞くと、今でもまず思い出すのがこのことです。


2004年頃から市民病院などの分娩取り扱い休止で産む場所が少なくなったうえに、こうした医療事故の報道が分娩場所の閉鎖を加速させたと、当時の先が見えない不安だった日々が蘇ってきます。


Wikipediaの説明にも書かれているように、当時は奈良県だけでなく、首都圏でもまだまだ周産期搬送システムは整備途上で、搬送先を確保するのに数時間ぐらいかかったり、20件近く断られることもしばしばありました。


多くの方々の尽力で、10年前、20年前には夢のようだった周産期ネットワークシステムができてきました。


奈良県南部の周産期医療を支えていた大淀病院の産科が閉鎖されて、その地域には分娩場所がなくなったと、当時耳にしました。
過疎地なのではなく、産科医がいなくなった。


まるで鶏が先か、卵が先かの話ですね。
「事実」とは、よくよく気をつけていないと見失いやすいものだと思った記事でした。





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