夢の島公園には、もうひとつ行きたかった場所があります。それが夢の島熱帯植物館です。
新木場を通過する時に見える大きな温室に、行ってみたいという思いと、行ったら東南アジアでの生活がよみがえって日本から脱出したくなるのではと南洋幻想へ傾く気持ちに躊躇していたのでした。
車窓から見える印象よりは、中に入ってみるとこじんまりとしていました。
平日のためか数人ぐらいしか来場者がいなくて、静かでした。
一歩温室に入ると、匂いや湿度からいろいろな記憶が沸きあがってきました。
中心に水が流れている場所があって、マングローブまであります。
マングローブの森から外洋へ船で出た時のことやマングローブを伐採してエビ養殖場が作られた地域を訪ねた時のことなど、一瞬にしてさまざまな情景が交錯しました。
川で沐浴したり、熱帯雨林が伐採されていく地域の少数民族の村を訪ねたり、ラタンを採るために森の中を一緒に歩いたこと。
あの時の匂いと同じ。
バナナやココナッツも、そしてコーヒーも実をつけていました。
ブーゲンビリアを始め、さまざまな花がありました。
ああ、懐かしいと思うとともに、私が全然知らない熱帯の植物がたくさんありました。
もしかしたら、あの頃見ていても見えていなかった植物がたくさあるのでしょう。
ここで育てているのはその多様性のごく一部に過ぎないことを思うと、ちょっとめまいがしそうです。
ずっと気になっていた植物もありました。
ビルマネムという木です。
こんな説明が書かれていました。
この木に寄生するラックカイガラ虫からは大変高価なエンジ色の色素がとれる。インドや東南アジアではこの虫が大量に養殖され、現在では安全な天然色素として、食品、ジャム。ゼリー、キャンディーなどに使われている。
たしかこの木とラックカイガラ虫を初めて知ったのは、森枝卓士氏の本だったと思います。
人工的っぽいあの赤い色素が天然で、しかも虫から採れることに驚くとともに、どうやってそれを見いだしたのだろうとその試行錯誤の時間に気が遠くなるような思いが印象に残ったのでした。
そして少数民族の友人が、「熱帯雨林にはまだまだ薬になる原種がたくさんある」と言っていたことを思い出します。
私が病院で当たり前のように使っていた薬品の一部も、この熱帯雨林がルーツだったことも当時つながっていったのでした。
夢の島熱帯植物園の真ん中には、ニッパ椰子の小さな小屋まであって、その中のベンチに座っていると、もう本当に気分は向こうの世界でした。
「人工的な」環境なので、怖い生物もへびも出なくてあんし〜ん、と思っていたらしっかり蚊にさされました。
蚊に刺されやすい方は虫除け対策をして、是非夢の島植物園へ。
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