水草の本を読み始めてじきに、もう一度神代植物園に行ったら、国立科学博物館筑波実験植物園で「水草展」が行われるというチラシを見つけました。
しかも、その水草の本の著者によるものです。
なんという偶然でしょうか。
今まで行ったことがなかった筑波へ、今年は縁がありそうです。しかも、あの地図と測量の科学館へ行く時に道に迷ったあたりです。
これは「行きなさい」という神の啓示に違いないと、水草展へGO!となったのでした。
たくさんの水槽にさまざまな水草が展示されていました。
中でも印象的だったのは、どのように受粉が行われるか説明されていたブースでした。
水面に浮いているゴミや泡のように見えるものが花粉であったり、花粉を守って受粉させるための役目があったり、受粉までのしくみはその巧妙さに驚かされました。
小学生の頃には湧き水があちこちにある野山を駆け回って遊んだり、東南アジアで暮らした時には川へずんずんと入って沐浴したり、マングローブの中に入ったりしていたのですが、その水の中でこういう世界があることに思いも至らなかったのでした。
ああ、踏み荒らしてしまってごめんなさい。
<人間のための水位の管理と水草>
その展示でさらに印象的だったのは、1993年以前の水管理方法に戻せばコシガヤホシクサを救えるという研究の説明でした。
「ふるさとの植物を守ろう」という日本植物園協会の「市民と植物園で進める絶滅危惧植物保全への取り組み」(2009年9月)に、その経緯が書かれています。
また、直接リンクできないのですが、環境省の「絶滅のおそれのある野生動植物の生育域外保全|取り組み事例」に「コシガヤホシクサ(地域関係者で協定を結んで行う野生絶滅からの野生復帰)」として挙げられています。
もともとコシガヤホシクサは、砂沼で長年続いていた水管理方法とよく共存して種を維持してきました。春の発芽前後に水位が上昇したあとの生育期は水中で過ごし、水田へ水供給の必要がなくなる秋頃に水位が落とされると、水上に花茎を立ち上げて開花し種子をつけます。花は水上にないと咲かず種子も作れないうえ一年草であるため、秋に種子が作れないと翌年にはコシガヤホシクサは消えてしまいます。水不足を背景に1994年から年間を通じて高水位を維持するようになったため、世界で唯一の自生地であった砂沼からコシガヤホシクサは絶滅しました。
このように砂沼でのコシガヤホシクサの絶滅は、秋に水位を下げなくなった水管理方法の変化によることが明らかだったため、1993年以前の水管理方法に戻すことによって、生育域環境を再現できる可能性がありました。そこで、筑波実験植物園では砂沼の所有者、管理者、利用者に理解と協力を求め、9月下旬から3月末まで水位を下げることに合意いただき、これによりコシガヤホシクサが自生していた砂沼の柳ワンドには、底土が露出する湿地が現れ、野生復帰への土台ができました。
コシガヤホシクサという名前も初めて聞いたのですが、人間側の水不足という不安を前に、関係者の方々を説得することはとても大変だったのではないかと想像しました。
マグロやウナギのように、「採りすぎない、食べすぎない」で資源が守れることがわかっていてもなかなか社会には広がらないのに、「コシガヤホシクサ、なにそれおいしいの?」ぐらいにしか思ってもらえなかったのではないかと。
水草展のあと、広大な植物園を歩いてみました。
神代植物園と同じように、道ばたの一つ一つの植物に名前がつけられ、大切に管理されていました。
それでもこの園内の植物は、私が一生かけても覚えられないほど多様な植物の、まだその一部でしかないのですが、その生活史を日々観察していらっしゃる方々によって守られていることに感動しながら、帰路についたのでした。
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