観察する 17 <待合室の30年の変化>

なぜ「生活史」という言葉に引きつけられたかというと、産婦人科の待合室のここ30年ほどの変化を考えていたこともあります。



私が看護職になった1980年代初頭と比べて、大きく変化したことがあります。
それは待ち合い室に男性と子どもの姿があることです。


1980年代初頭の記憶はあいまいですが、1980年代終わりに助産師になった頃、「夫立ち会い分娩」や「両親学級」が先駆的な分娩施設で取り入れられ始めていた頃でしたが、妊婦健診に同伴する男性はまだいませんでした。



当時勤務した二つの総合病院でも、産婦人科外来は外来棟の端にひっそりとあり、男性が踏み込みにくい場所にありました。
産科だけでなく、婦人科受診する女性の羞恥心に配慮したものだったのでしょう。
子どもを連れての受診もあり得ないという雰囲気でした。


90年代半ばになると、ボチボチと妊婦健診に夫同伴で来院する姿を見かけるようになった記憶があります。
ただ、本人の診察の間は夫は待ち合い室で居心地が悪そうに待っている感じです。
産婦人科外来とか産婦人科クリニックに入ること自体が、男性側にもまだまだ抵抗感があったのではないかと思います。


2000年代になると、経腹エコーでの胎児の様子を夫も見ることが普通になってきて、産婦人科外来の診察室に男性が入ることがごく自然になりました。
産婦人科外来の待合室も、時には男女半々ぐらいの割合のことがあります。



仕事中は、そういう場面も当たり前になってしまったのですが、もし私が婦人科を受診しようとドアを開けた時に待合室に男性の姿を見たら、そっとドアを閉じて他の施設を探すかもしれないと、ちょっと複雑な気持ちです。
まあ、通院し始めたら気にならなくなるのかもしれませんが。


<子どもと一緒に妊婦健診に来る理由>


子どもの姿を病院の待合室で見るのは、小児科外来だけでした。
その子どもの姿が産婦人科外来で見かけるようになったのは、男性よりもあとだった印象です。


病院の待合室というのは体調も悪い人がいるので静かにしなければいけない、静かにできない年齢の子どもは連れてくるべきではないという社会的な暗黙の規範があったのだと思います。


それが80年代、90年代の「自然なお産」の流れで「家族とともに迎える出産」という雰囲気が、外来の風景も変えました。
「院内助産のメリット」に、「夫や上の子供も一緒に話し合ったり、エコーを見ることができる」とありますが、「院内助産助産師外来」でなくてもいつの間にか、勤務先の外来もこの変化を受け入れていました。


ひとむかし前の産婦人科外来待合室の厳然とした雰囲気を思えば、ものすごい社会の変化が90年代あたりを境にして起きたことになります。


お母さんに連れられて来た幼児の言葉や発想に、こちらも和んだり、驚くこともあってそれはそれで良い変化だったのではないかと思います。


ただ、ちょっと気になるのが、「預けたくても預けるところがなくて仕方なく上の子を連れて妊婦健診に来ている」方がけっこう見受けられることです。
待ち時間にぐずったり、診察中にも目を離せなくて、自分の健診どころではないこともあります。
ちょっと疲れた様子が気になります。
本当は、この妊婦健診の時ぐらい一人になりたいという方もいらっしゃるのだろうと思います。


こういうわずかな変化を見逃さずに「生活史」として記録され、ケアに必要なことは何か考えていけると良いのですけれど。




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