乳児用ミルクのあれこれ 39 <日本では誰がどのように乳児用ミルクの説明をしているのか>

先日、ぶらりと散歩をしていたら、栄養専門学校の前を通りました。
ちょうど国家試験も終わり、就職先が書かれた紙が張り出されていました。
病院に就職が決まった方もいらっしゃれば、官公庁という方もいらっしゃいました。
「栄養」という専門知識と技術を、さまざまな分野で活かしていく方がたくさん今年も羽ばたいたのでしょう。



さて、前回のミルク・ナースですが、日本の場合は看護職ではなく、乳業会社からこの栄養士さんが派遣されてきます。


医療関係の仕事をしていると、栄養士さんに病院の食事でお世話になっているのですが、身近なようで栄養士という仕事や病院以外での仕事などについては、案外知らないものです。
栄養士さんたちはどのような職場で、どのような働き方をしているのでしょうか。


かくいう私も、栄養士さんの資格が戦後に決められ、特に保健センターの栄養士さんたちがへき地地域での母子保健啓蒙活動粉ミルクが販売されていない時代に適切な人工乳の作り方を試行錯誤されていたことさえ、このブログを書くことで初めて知りました。


子育て中の方なら、むしろ保健センターの栄養士さんのほうが身近に感じるかもしれませんね。


また、「日本における栄養士・管理栄養士制度と養成システムの変遷」(鈴木道子氏、東北大学大学院教育学研究科研究年俸 第57集・第1号(2008年))を読むと、doramaoさんのような管理栄養士という資格も「1962年の改正で栄養士の上級資格としての管理栄養士資格(国家資格)が創設され、2000年の改正で管理栄養士の定義の変更があった」と書かれています。
病院に勤務していながらも、私が「管理栄養士」さんの存在を知ったのは1994年頃の選択食の特別加算変更あたりで、個々の入院患者さんに応じた食事を作るために、栄養士さんたちが病室まで出向いて直接患者さん達と話をしてくれるようになった頃でした。


<分娩施設と栄養士さん>


総合病院で働いていた頃には、病院によって産科病棟での栄養士さんの働き方もいろいろとありました。


病院に所属する栄養士さんが、妊娠中の母親学級での栄養の話と出産後の調乳説明までしている病院もありましたし、乳業会社から派遣された栄養士さんに依頼している施設もありました。
あるいは、退院までの栄養や調乳の説明は院内の栄養士や看護職が行い、1ヶ月健診の栄養相談は乳業会社から派遣された栄養士さんが担当している施設もありました。
また、入院中の新生児のための調乳も、栄養士さんが衛生的な方法で一括調乳してくれる施設もありました。


産科診療所に移って、いろいろと総合病院とは違って驚くことがたくさんありました。
小規模な産科診療所でも栄養士さんを雇用している施設もあるようですが、全体のどれくらいでしょうか。


おそらくほとんどの産科診療所が、入院中の食事もつわりや減塩、術後食となると栄養士さんの知識や技術を活用することなく、メニューが決められているのではないでしょうか。


看護スタッフも常に人手不足なので、母親学級や調乳説明までとても手がまわりませんから、乳業会社の栄養士さんにお願いしています。
また、妊娠中に血圧上昇や体重管理など個別の栄養相談が必要な方も、乳業会社の栄養士さんに依存している状態です。


全国には、こうした乳業会社からの派遣の栄養士さんとして働いている人はどれくらいいるのだろう、どのような働き方をしているのだろう。
母乳育児推進のムードの中で、自分たちの仕事に批判が向けられていることをどう感じているのだろ。


80年代から乳業会社の「ミルク・ナース」が批判され始めた頃からずっと気になっているのですが、いまだに、その実態が明らかにされた上での「批判」を見たことがありません。


おそらく、乳業会社から派遣された栄養士さんの存在なくしては、周産期や小児の栄養の知識の啓蒙は進まなかったのではないかと思います。
病院や保健センターの栄養士さんたちだけでは、とても人手が足りなかったことでしょう。


何を改善し、どのようなシステムが可能なのでしょうか。
乳幼児の栄養の適切な知識を啓蒙していくためには。


しばらくこの話題が続きます。



「乳児用ミルクのあれこれ」まとめはこちら


「汚れたミルク」という映画を観て考えたことを書いた記事のまとめはこちら