気持ちの問題 47 <ヒトのグルーミング>

職場は20代から70代と幅広い年齢層のスタッフがいます。
普段は相手のことを理解しているつもりになっているのですが、ふとしたことで、言葉の持つニュアンスの相違や経験して来た時代の感覚の差のようなものを感じます。


数年ぐらい前だったでしょうか、退院時のアンケートへ「子どもへのグルーミングを教えて欲しかった」と書いた、30代でお二人目の出産後のお母さんがいらっしゃいました。


「え?グルーミング?・・・毛繕い?」と、頭の中は「?」で一杯になったのですが、もしかすると「新生児にそれをすると落ち着く方法」あるいは「眠ってくれる方法」の意味なのかもしれないと、漠然と理解しました。


新生児のおでこのあたりから頭頂部に向けてそーっとなでたり、手のひらをあてているだけで、ぐずっていた新生児が静かになり、ガクンとリラックスしていくことはよくあります。
あるいは、タオルなどを頭からおでこのあたりにふわりとかけるだけでも、寝付くことがあります。
また手足をやさしくさすったり、背中をトントンしたりといった方法も、気持ち良さそうにします。


ただ、何と言っても、「こうすれば新生児を泣き止ませられる」「こうすれば新生児を眠らせることができる」というテクニック自体がないのだろうと思います。
そのあたり、出生直後の新生児の「眠りと行動」の変化については、こちらこちらこちらに書きました。
おそらく腸蠕動が活発な時間帯は深い眠りになりにくいことと、親や周囲の人のアンテナが自分に向いていないとパッと覚醒する「置き去り防止センサー」があるのでしょう。


ですから「眠って欲しい」と思えば思うほど、新生児は「眠ったら危険」と何としても起きていようとするのかもしれません。
おでこのあたりをそっとなでて、「やった!眠った!」と思った瞬間に、新生児も「ハッ」と目を開けるの繰り返しが続くのですね。


冒頭のお母さんは、経産婦さんだったのでそれほど難しくなく新生児を眠らせることができたのではないかと思います。
ところが、一緒に入院していた初めてのお母さんが寝付かせるのに苦労しているのをみて、「やり方を教えてあげたらいいのに」と思われたのかもしれません。


でも、それは「グルーミング」が効果があったのではなくて、経産婦さんと初産婦さんの違いが一番の要因ではないかと思います。



<ヒトのグルーミング>


さて、このところ動物園や水族園で実際に動物のグルーミングを観る機会が多いのですが、「毛繕い」「羽繕い」は何をしているのかは表層的な知識しかありませんが、この言葉はヒト以外に使う言葉だと思っていました。
ですから、冒頭のお母さんが自分の子どもにこの言葉を使ったことにおおいにとまどったのでした。



ところが、Wikipediaグルーミングに「人間同士のグルーミング」とあって、びっくり。
ヒトにも使う場合があるのですね。
まあ、「人間の社会的グルーミングの実証的研究も若干数が存在している」程度の話なのですが。


でも自立した個体が自分で行う毛繕いや羽繕いと違って、何らかの関係を得るためにグルーミングしあうのは、ちょっと支配的な臭いを感じます。


「新生児へのグルーミング」と表現したお母さんには申し訳ないけれど、「眠ってくれ」「静かになってくれ」という大人の願望と支配を感じてしまったのでした。





「気持ちの問題」まとめはこちら
合わせて新生児の哺乳行動についてのまとめと「新生児のあれこれ」のまとめもどうぞ。