散歩をする   82 <水の溢れる場所から水の無い場所へ>

最近は氷川神社が気になりながら、地図をながめています。
パソコンの地図を拡大したり縮小していたら、あの笹塚周辺と同じく半径500mぐらいの場所に氷川神社が3つある場所を見つけました。
世田谷区の多摩川に近い場所です。


地図を行ったり来たりしながら、散歩のコースが決まりました。
あいにくの真夏の暑さが戻った日で、欲張って立てた計画をやりとげられるか自信はなかったのですが、行けるところまで行ってみようと出かけました。


スタートは二子玉川です。
混み合っている商業施設をすりぬけ、人通りの少ない商店街へと向かいました。途中で丸子川があるので、それに沿って歩くと静嘉堂文庫と岡本民家園公園の前に出ます。
国分寺崖線の南に位置したこのあたりは、あちこちから湧き水が丸子川に注いでいます。


涼しげな水音に誘われて、「散歩も急ぐことはないし。今日は暑いから休み休み歩こう」と公園の中でしばし休憩することにしました。


前回、この公園に来た時に目に入っていなかった説明に気づきました。

岡本隧道


 この案内板から50m先、民家園の左側に石垣囲いの蒲鉾型の扉があり、「岡本隧道」という字が刻まれています。隧道とはトンネルのことで、扉の中は、高さ2m、幅2.5mのトンネルになっていて、そこには直径80cmもある送水管が通っていて、その長さは120mにも及びます。
 1921年(大正10年)、当時の豊多摩郡渋谷町(現在の渋谷区)では、多摩川の水を街に引き込もうと、大規模な水道工事を始めました。
 砧浄水場で取水・浄化した水は駒沢給水所、三軒茶屋を経て渋谷に至り、地下の送水管は南西から北東へ直線的に世田谷を跨いでいます。
 水は、駒沢給水所までは揚水ポンプの力で高く持ち上げられ、給水所から渋谷までは自然の重力で送水されました。砧浄水場をでてすぐに、この岡本の台地を横断しますが、揚水ポンプの負荷を少なくする工夫として送水管専用のトンネルが利用されました。
 これらは、1923年(大正12年)に竣工した近代水道の建造物であり、今でも珍しい施設で、極めて貴重な歴史遺産です。
  駒沢給水塔風景資産保存会・世田谷区


その立て看板がある公園から南側には水道道路と思われる細い道がありました。
砧浄水所からの水がいったんトンネルに入って、そしてあの駒沢給水塔へと送水されていたことが、頭の中で繋がったのでした。


そしてその砧浄水場も、今日の散歩の目的の一つです。
よし、暑いけれど頑張って歩こうと公園を後にしました。


氷川神社のある場所>


丸子川が仙川から分岐する場所にぶつかります。
そこにかかっている橋の名前は「水神橋」でした。
仙川を渡ってすぐのところに、鬱蒼とした鎮守の森が遠くから見えていた大蔵氷川神社があります。
参道は20段ほどの急な階段になっていて、おそらく国分寺崖線のきわに造られているのだろうと思います。
「暦仁元年(1238)に江戸氏が埼玉県大宮市の氷川明神を勧請したものと伝える」とあります。
当時どんな状況で、ここに大宮の水神様を呼ぶことになったのか、興味が尽きないですね。


明治時代に描かれた奉納絵図の説明には、こんなことが書かれていました。

 奉納絵図は、画面の下方を六郷用水(治太夫堀)が流れ、中央やや右寄りに氷川神社社殿、その前面に幟と二基の鳥居、画面左横には永安寺本堂や庫裏、観音堂の姿が描かれている。
 さらに、鳥居に向かって右横に堀で囲まれた草葺の農家と土蔵が描かれているが、これが大蔵村名主を勤めた安藤家の屋敷である。
 六郷用水流域には、川で洗い物をする婦人の姿や、子供を連れた村人らが描かれ、のどかな田園風景が描写されている。


二子玉川から歩いて十数分ぐらいのこの辺りは現在は住宅街なのですが、ところどころに農地や空き地が点在していて、この奉納絵面の雰囲気がちょっと感じられる場所でした。


二つ目の氷川神社は、野川を渡って多摩川の近くにある宇奈根氷川神社です。
この辺りになると高低差はほとんどなくて、神社も住宅と同じ高さに建てられていました。
周辺にはまだ農地があって、無人販売所もあちこちにありました。
道もくねくねと曲がって複雑に入り組んでいる場所が多く、おそらく、用水路の跡だろうと思います。
対岸の川崎側にも「宇奈根」があり、洪水によって袂をわかつほど、多摩川へ仙川と野川が流れこむこのあたりは水害も多かったのではないかと思いますが、ここに大宮から水神様を呼びせることを決めた時代はどんな雰囲気だったことでしょうか。


宇奈根から東名高速道路の下を通って数分のところに、砧浄水場があります。


名前はずっと知っていたのに、なかなか来る機会がなかったのでした。
この砧浄水場の近くに3つ目の氷川神社があります。
行きたかったのですが、今日の旅はまだ道半ば。
実は、ここから「水が無い場所」へ向かって歩き続ける予定なので、三つ目の氷川神社を訪ねるのはやめました。


ということで、今回の散歩の後半に続きます。



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