助産師の世界と妄想 33 <「助産政策」と「エビデンス」>

助産師の乳腺炎のケアに対する総論も各論もまだ未成熟な段階で、乳腺炎への対応に診療報酬が支払われることは寝耳に水でした。


むしろ、妊婦健診補助券のように、産後1年間ほど使える補助券があったら良いのにと思っていました。
そうすれば、「体重が増えない」「黄疸が長引いている」「お母さんの赤ちゃんの世話についての不安が大きい」と言った方たちが来院してフォローを受けるときに使えるし、授乳相談や乳腺炎のごく初期の対応にも使えます。


現在は、体重が増えないとか黄疸が長引いているなど生後1ヶ月までのフォローは、各施設で無料あるいは極少額の支払いで対応しているところが多いのではないかと思います。
お母さんたちへの出費を抑え、相談に来やすくしてもらうために、分娩施設側の持ち出しでサービスのように対応しているのではないでしょうか。
「思います」としか言いようがないほど、こうした産後のフォローについても全体像が把握されていないのが現実でしょう。


妊婦健診補助券が14回分になった時に、次はせめて1か月ごろまで、できれば産後1年ぐらいまで使える補助券をと期待したのでした。


<「助産政策」>


さて、この診療報酬に組み込まれた経緯について、「助産雑誌」11月号で特集がありました。
「「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」新設の意義  診療報酬点数化の経緯と概要、日本助産学会の取り組み」から紹介します。

日本助産学会の助産政策委員会では、会員向け勉強会として「助産政策ゼミ」を立ち上げて運営するかたわら、医療政策や診療報酬に関する専門家を招聘した委員会内勉強会を重ねてきました。そして、2018年診療報酬改定での点数化を目指して準備を進め、一般社団法人看護系学会等社会保険連合(以下、看保連)への要望につなげました。

すごいなあ、いつの間にか「助産政策」なんて言葉もできていたのですね。


日本助産学会のニュースレター2018年5月号に掲載されたメッセージがありました。
長いのですが全文、書き写しておきます。(強調部分は引用者による)

 平成30年度診療報酬改定に向けては、1)助産外来・院内助産所体制評価や、2)退院後の切迫早産妊婦の訪問等、そして3)乳腺炎重症化予防に関する技術評価に関して診療報酬化に向けて準備をし、一般社団法人看護系学会等社会保険連合(以下、看保連)に要望案を提出しました。

本来、「正常な経過」を対象とした助産外来と院内助産は自費医療の範疇なのに、なぜ診療報酬の中で評価されるのだろう、「切迫早産」もそれまで頑ななほど「正常」にこだわっていた助産師の世界ではほとんど話題にされることもなかったのに、いきなり「訪問看護」で扱われるのはなぜなのだろう。
最初から、いろいろと考えさせられるメッセージです。


 看保連に提出された要望案は、看保連事務局によって選別されますが、1)〜3)の全てが厚生労働省保険局(*原文のまま、おそらく保健局の誤字)医療課に提出されました。その中で看保連より厚生労働省中央社会保険医療協議会医療技術評価分科会へ提出された、乳腺炎重症化予防に関する技術評価が審議され、その結果、乳腺炎の重症化を予防する包括的なケアおよび指導に関する評価として、診療報酬に「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」という名称で新規収載されました。

 今回、本件の診療報酬収載が実現したのは、乳腺炎重症化予防ケア・手順について標準的な手順があり、それを実施できる助産師が日本中にいることが根拠を持って示されたことになります

「標準的な手順」については欄外で「日本助産師会:母乳育児支援業務基準 乳腺炎2015」が挙げられていました。
また、日本助産学会による「乳腺炎重症か予防ケア・指導経過記録用紙」「乳腺炎重症化予防ケア・指導経過記録用紙の使い方」(いずれも2018年7月版)が掲載されていました。


その内容を見ても、日頃、乳腺炎に対応してきた経験からくる観察ポイントや対応とも違う、なんだかにわか作りの理論のように見えてしまうのは、やはり「症例研究」の積み重ねの段階がないからではないかという印象です。
いや、一生懸命作ってくださった方には申し訳ないのですけれどね。
全国の助産師の対応方法や考え方をもっと広く集めてくださると良いのに。


 多くの助産や看護のケアは、その効果が科学的エビデンスとして示されておらず、実際に診療報酬として点数化されるのは、看保連から厚生労働省に要望したもののうち多く見積もって3割程度です。近年は特に超高齢化の中で、認知症や在宅ケアには診療報酬が点数化されやすく、母子に関するケアは報酬評価されにくいという現状があります。そのような状況の中での今回の「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」の収載は、誠に稀有な事例であるといえます。
 診療報酬に収載されたことは、国民皆保険制度の元、誰もが標準的な医療を受けることができることを意味します。すなわち、誰もが支払い可能な料金で、適切なケアが受けられるということです。これは日本の母子のために大変意義深いことであると考えております。


出産は病気ではないからと医療から自ら離れようとし、医師のいないところでの自律した開業を目指してきたのが助産師の一部の人たちなのに、「母子に関するケアは報酬評価されにくい現状」というのは辻褄があっていないですね。


また診療報酬というのは、医師が効果を認めた内容が科学的な手法で選ばれた治療方法が基準になっていると理解していました。
それまで主流派の大半の医師が認めていない治療法を、乳腺炎やら育児に積極的に取り入れていたのに、何を持って「適切なケア」というのだろう。
まずは足元から見直して、整理していかなければいけないのではないでしょうか。


大丈夫でしょうか、「助産政策」の方向は。




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