助産師の世界 4 「骨太」に取り込まれた一部の助産師

政府がやるべきことはまず国会議員の在り方のはずなのに、国民の生活を大きく変える政策を次々投げ込んでくるのは断末魔の叫びか閉店前のバーゲンセールでしょうか。

 

骨太の方針」21日に閣議決定へ 賃上げの定着、価格転嫁対策の徹底などを重要課題に位置づけ

(ABEMATIMES、2024年6月3日)

 経済財政運営の方針「骨太の方針」について、政府は6月21日に閣議決定する方針であることがわかりました。

 「骨太の方針」は、政権の重要課題や次年度の予算編成などの基本的な方針を示すものです、今回の「骨太の方針」では、岸田政権が最重要ししてきた高水準の賃上げの定着に加え、価格転嫁対策の徹底、中堅・中小企業の生産性の向上、資産運用立国の推進などを重要課題に位置づける方針です。

 政府は4日、経済財政諮問会議に骨子案を示し、21日の閣議決定に向けて議論を進めます。

 今までならさらりと読み飛ばしているようなニュースですが、「骨太の方針」と「経済財政諮問会議」という言葉で引っかかりました。

ほんと政府は「骨」がお好きですからね。そして観光立国とか資産運用立国とかも。

 

バーゲンセールのように重要な政策を投げ飛ばしているのは、おそらくこの「経済財政諮問会議」の方を向いているからなのだろう。

そして、このところの一部の助産師の「正常分娩を保険適用の対象に」の裏がなんとなく読めてきました。

なんとなく、ですけれどね。

 

 

*いつも「骨」がちらつく出産の話題*

 

最初に違和感を感じたのが2007年で、「助産師による正常分娩時の会陰切開、縫合を解禁させよう」という病院勤務の私には寝耳に水な話が「医療分野の規制改革」として出てきたことでした。

以来、経済財政諮問会議が出てくると、「緊張感を持って注視」していました。

 

そうこうするうちに2013年には、「これまで手薄だった出産時の支援を強化するため、出産直後の母子の宿泊や日帰りで受け入れる「産後ケアセンター」を全国で整備という話が出てきました。

1990年代初頭の日本助産婦会が風前の灯の時期に「自然なお産」や「自宅分娩」ブームで息を吹き返したものの、同じ頃に急激に変化した救命救急の対応で再び助産院での分娩やケアの需要が減ったところに、渡りに舟だったのでしょう。

助産師だけの介助ではリスクが高い分娩を請け負わなくても、産後ケアなら助産院の開業を維持できる、そんな思惑があったのだろうと推測しています。

 

この時にも「産後ケア」なのに周産期医療の専門家による議論もなく、そして定義やリスクマネージメントを示されることさえないのに「骨太の方針」に含まれていました。

 

*しだいに保険適用の領域に入り始める*

 

現在は「産後ケア」であれば医師のいない施設でも開業可能ですが、「母乳相談」となると一つどうしてもクリアしなければならないことが出てきます。

 

 

乳腺炎」というのは「疾患」「異常」ですから、本来は医師の診察と治療の範疇だと思うのですが、長いこと「乳腺炎に対するマッサージ」で助産師による自費の対応というグレーゾーンの部分でした。

産後ケア施設で対応できなくなることを避けるためでしょうか、乳腺炎の対応が保険診療に組み込まれることになった時に、「保険医療機関」に対して「保医療機関」という用語で乗り切って診療報酬に組み込まれたようです。

 

すごい政治力だと、この助産師の世界の信念の強さに驚きました。

 

 

*いよいよ「正常なお産」へ*

 

最近、話題になっている「正常分娩」の保険適用をめざすですが、それを推している政治家の皆さんは本当に「正常分娩」の正常と異常の境界線をわかっていらっしゃるのでしょうか。

 

かつては私も「正常分娩」という用語を使っていたけれど、現代ではもはや専門用語ではないと思うほどもやもやする言葉です。

終わってみないと正常かどうかわからないですし、突然、母子二人の救命救急の修羅場になる可能性もあります。

 

お母さんは無事でも赤ちゃんに蘇生や治療が必要な場合もありますし、反対に赤ちゃんは無事でもお母さんに治療が必要なこともあります。

その場合は「正常分娩」と言えるのか言えないのか。

現在は、問題のない新生児はまだ保険適用ではなく、母体の付属という存在で自費で対応ですがそれもどう変わるのでしょうか。元気でも赤ちゃんはすぐに健康保険扱いになるのでしょうか。

 

 

*築いてきた社会保障をなくす方向へ加担した責任*

 

 

「正常な分娩」を助産師だけで扱う信念が強い人が残り続けているからかと思っていましたが、最近はもしかするとそれだけではないかもしれないと思っています。

 

分娩を健康保険扱いにすれば、今までは自費で認められていたことも診療報酬から消されたり金額を下げられることがあることでしょう。それは開業助産師自身の首を絞めることになります。

 

その先にあるのは膨らみ続ける社会保障費は「聖域とせず見直す」のが「骨太」ですから、おそらく分娩施設はさらに集約化され、保険適応での産後の入院期間はもっと短くなり、イギリスとかアメリカのように出産2時間後には退院もあり得るかもしれませんね。

 

その受け皿として「産後ケア」で生き延びようとしているのではないか。

杞憂だといいのですけれど。

産後もいろいろ異常は起こりますから、医師とともに経過を見た方が良いと思いますけれどね。

 

いつ頃どこでどの助産師がどのように、政府の「骨太の方針」に取り込まれて行ったのでしょう。

分娩についてわかってもいない経済界の動きで制度を大きく変えられて、周産期医療が崩壊しかねない方向になったら助産師としてどのような責任を負うのでしょうか。

 

 

 

 

助産師の世界」まとめは「助産師の歴史」のまとめにあります。

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