看護職の職能団体からの除名とは?


医療事故にいつ自分が遭遇するかわからないので、常に仕事上の法的責任を意識しています。


日本看護協会の医療看護安全情報の「医療事故に伴う看護職の責任」に、以下のような説明があります。
(リンク先が削除されたのかみつかりませんでした。すみません)

看護職による業務上の事故のうち過失が立証された医療過誤の場合、刑事・民事・行政上の法的責任を問われる。
社会の秩序維持、社会防衛に反する責任として「刑事上の責任」が、被害者の救済を目的に個人の受けた損害を賠償する「民事上の責任」が、そして法で定められた資格を持つものとしての責任として「行政上の責任」が問われる。


行政上の責任については、以下のように書かれています。

看護職が医療事故によって罰金以上の処分を受けた場合に、保健師助産師看護師法第14条に基づき、免許の取り消し、業務停止の処分が行われる。
この処分は、保健師助産師・看護師に対しては厚生労働大臣が、准看護師に対しては都道府県知事が命ずる。

具体的にどのように行政処分が行われているか、看護協会のホームページから行政処分を受けた者の再教育が始まった2009年の安全情報を紹介します。
安全情報「看護職が関与した医療事故報道等について」
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/anzen/pdf/2009/200904.pdf

2009年1月には16名の保健師等が行政処分を受け、このうち医療事故に関して処分を受けたのは4名です。医療法の一部改正に伴い今回の行政処分を受けた者から再教育研修を受けることとなりました。
医療事故に関与した者も、その他の事由により処分を受けた者も、研修を受け、厚労省からの再教育研修修了書を得ることが看護業務への復帰の条件となりました。

医療事故の内容については詳細にあるとおり、通常のインシデントレポートでの想定範囲内の事故ともいえます。その中で行政処分を受けるか受けないかの分かれ目のような部分は何なのでしょうか。
医療事故というのは、本当に思わぬことで起こります。だからこそ、その経験から教訓を得て具体的な対応策へ生かしていくしかありません。通常、個人への懲罰的な処分というのはなじまないと考えています。


それでも、こうして行政処分が毎年行われていることはなぜなのか。
同じような事故を繰り返すいわゆるリピーターであれば、看護職として不適任という判断もあり得るでしょう。
生命に直結している仕事であるという認識に欠けて、事故を起こしたことへの真摯な反省がなければやはり不適任とみなされることもあるでしょう。
実際にどのような判断基準があるのでしょうか。本当にまだまだ知らないことばかりです。


このような免許の取り消しや業務停止という行政処分については関心がありましたが、職能団体の除名というのは今まで自分のこととして考えたこともありませんでした。
前回の記事新生児を温めるということ - ふぃっしゅ in the waterで、初めて除名ということを考える機会になりました。


日本助産師会定款・細則にある事業の「目的」と「除名」を抜き出してみます。

(目的)
第3条 本会は助産師相互の親睦と職業的地位の向上を図るとともに専門的学術の研究につとめ、併せて母子保健に関する知識の普及並びに家族保健及び母性保護の改善に貢献することを目的とする。

「家族保健」て耳にしたことがない表現ですが、定義は何なのでしょうか。まぁ、それはおいておいて除名について。


(除名)
第12条 会員が次の各号の一に該当する場合には、総会において出席した代議員の3分の2以上の議決に基づき、除名することができる。この場合、その会員に対し議決の前に弁明の機会を与えなければならない。
(1)本会の定款・規則に違反したとき
(2)本会の名誉を傷つけ、又は目的に反する行為をしたとき

看護協会もほとんど同様の内容です。


私は助産師会には入っていませんが、保健師助産師看護師の職能団体である看護協会には入会しています。積極的に関与しているわけではなく、看護賠償責任保険が始まった当初は看護協会員であることが条件だったという程度の動機です。もちろん、看護協会がこれまで看護職の労働条件や教育などの改善に貢献してきたことは理解していますが、一個人としては入会していてもしていなくても仕事にはなんら影響がないというところです。


それに対して開業助産師の場合は、分娩や保健指導で開業する場合には助産師会独自の賠償責任保険に加入する必要があると聞いたことがあります。
まただいぶ以前の話ですが、新生児訪問指導員になる場合にもその地区の助産師会に入会していることが条件という地域があるという話を聞いたことがあります。私の地域では個人と保健センター間の契約でしたから、その話を聞いて驚いた記憶があります。


つまり開業助産師にとって助産師会の除名とは、生業の危機あるいは、業務停止に匹敵する重大な処分ということでしょうか。
まあ個人開業というのは組織によるチェック機能がない分、それくらいの厳しさがなければ助産師として不適任と思われる人が働き続けてしまうことになりかねません。


犯罪とか不正行為は除外して、もし私が医療事故によって行政処分を受ける可能性あるいは除名を受ける可能性というのは、どういう状況なのでしょうか。
たとえば「看護協会の名誉を傷つけ、あるいは目的に反する行為」とはどういうことか。


その答えは、日本看護協会が出している「看護者の倫理綱領」(2003年)にあるのかもしれません。
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/rinri.html
この中で、私が助産師として働いてきて助産師の中にある危うさを感じたものが以下の点です。

4.看護者は、人々の知る権利及び自己決定の権利を尊重し、その権利を擁護する

出産・育児に関しては文化的背景、社会の変化、多様な価値観があります。授乳方法ひとつをとっても「これはよい」という考えが大きく反動のように変化します。
産む人の主体性を大事にすることは大事です。が、同じ表現が助産師側のこだわりを生み出すこともあります。
出産に関しては「主体性」や「選択」を大事にしていますが、授乳に関してはどうでしょうか。
価値観に左右されやすい部分が多い助産師の活動には、助産師個人のこだわりが強すぎるときにこの倫理に抵触するような事故や事件に結びついていきやすいと考えています。
乳房マッサージ、整体、ホメオパシーマクロビオティックスその他のさまざまな代替療法の広がりをもう一度、この倫理という視点からとらえなおす必要があることでしょう。


6.看護者は、対象となる人々への看護が阻害されているときや危険にさらされているときは、人々を保護し安全を確保する。

自宅分娩など医師のいないところでの出産方法、あるいはフリースタイルや水中出産など、産む人が選択したことに対して受け入れるのであれば、危険な状況になる前には安全の確保が第一であるということです。あるいは母乳だけでいきたいと思っても、赤ちゃんの方が危険な状況にある場合もあります。また、食事療法、代替療法を選択する主体性を尊重する場合にも、健康に被害がでないように適切に医療につなげていくことが私たちの仕事であると思います。
助産師個人のこだわりや個人的体験から「それはよいもの」と勧めたり、医療を忌避させるような説明をすることは、対象の健康を大きく阻害させることになります。


8.看護者は、常に、個人の責任として継続学習による能力の維持・開発に努める。

基本的に助産師や看護職は勉強好きだと思います。セミナーなどたくさん開かれて、自主参加をしている人はたくさんいます。
けれども、学習の方法が間違っているのではないかと助産師向けのセミナーをみて思います。
代替療法や民間療法の資格取得のセミナーがなんと多いことでしょう。効果が実証されていないものを良いものとして信じこんで、事故が起きたときの責任を考えたことがあるでしょうか?
まして開業で利益を得ているとなると、一歩まちがえば詐欺になる危うさを感じないものでしょうか。
わかりやすいものばかりを学んでいると、方向を間違うと思います。
基本は周産期医学のテキストから学び、体験を積み、地道に学び続けるしかないのではないかと思います。


職能団体からの除名、個人を除名して処分は終わりではなく、除名した側の責任も当然あるということになるでしょう。
助産師会はどのような対策をとるのでしょうか。