災害時の分娩施設での対応を考える 4  <「分娩施設」とは助産師のいる施設のことだけなのか>

日本看護協会が出した「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」の「分娩施設」とは、どのような施設のことを指しているのでしょうか?


こちらの記事で、「看護管理」2012年12月号(医学書院)で引用された「助産師数別の分娩機関数」のデーターを紹介しました。


2002年のものなので古いものですが、「助産師一人未満」つまり助産師が勤務していない分娩施設が、病院で4.7%、診療所では44.2%もあります。


日本の分娩施設というのは医師と看護師で対応している施設がかなりあり、周産期医療を支えてきたということです。


助産師のいない施設でのフリースタイル分娩>


それなのに、「対応マニュアル作成ガイド」に「フリースタイル分娩」や「院内助産」が対応策であるかのように書くことは意味があることなのでしょうか?


災害時の分娩介助方法として「フリースタイル分娩」が有効であるならば、産科に勤務する医師や看護師にもその研修を広めていけばよいことではないでしょうか?


まぁ、平常時には産婦さんが好む体勢での分娩介助に対応している医師や看護師でも、さすがに非常時には確実に介助できてしかも最小限の物品で済むような方法にするのではないかと思いますが。


でもきっと助産師以外の人たち、特に産科勤務の看護師さんたちが「フリースタイル分娩」を習得したいと言い出せば、おそらく助産師の世界は教えることを拒むことでしょう。


災害時にそなえてフリースタイル分娩の研修を受けるよう書いてある箇所は、「災害に関する助産師への教育」の中でした。
決して「災害に関する助産師・看護師への教育」ではないのです。


助産師のいない分娩施設での看護師さんの産科看護は、このマニュアルの「分娩施設」には含まれていないのでしょう。


<災害マニュアルに「院内助産」の視点は必要か?>


さて、上記の「災害時の対応マニュアル作成ガイド」では、院内助産助産外来のシステムを有効として勧めています。

□院内助産を開設する。医師が立ち会えない分娩での技術を習得できるようになる。

助産外来の効果的・継続的な運営を行う。
→院内助産システムを導入する。助産外来のない施設では設置を前向きに検討する。
教訓 東日本大震災時、医師は傷病者対応に人手を取られたため、助産外来は他施設からの妊産婦の受け入れ対応に効果的であった。


平常時にも医師が外来や手術などで分娩に立ち会えず、助産師だけで分娩介助をすることもある状況は総合病院や診療所であればごくごく一般的なことではないかと思います。
あえてそれを「院内助産」と呼ばないだけのことです。


さらに災害時であれば、ハイリスクや異常な経過のお産でも、医師となかなか連絡がつかずに助産師だけの判断で介助せざるを得ない状況がでてくることでしょう。


それが非常時というものです。


日ごろから、異常分娩・ハイリスク分娩の介助経験を積んできて、かつ慎重に対応できる助産師あるいは看護師であればなんとか対応できることでしょう。
医師がどのような判断をするか、方針を理解して日ごろから一緒に働いているからです。


反対に、「正常な分娩経過」限定の院内助産に研修に行ってもこの非常時の対応を学べるとは思えません。


<災害時の産科看護師さんの法的責任>


助産師であれば、こうした非常時で医師不在になっても機転をきかして、多少ハイリスクの妊婦への保健指導をしたり分娩介助をして臍帯を切断しても法的には問題にならないことでしょう。


ところが助産師のいない分娩施設に勤務する看護師さんの場合、災害という非常時でも、医師が不在の状況で独自の判断で機転をきかせることは法的責任を問われる可能性があります。


災害の非常時に内診をして分娩経過の判断をすることは、許されるのでしょうか?
災害の非常時に医師の立会いが間に合わないときに分娩介助をすることは許されるのでしょうか?


こういうときにこそ「臨時応急の手当て」と解釈して、非常時の看護師さんによる分娩介助を法的に守る道術を整える必要があるのではないでしょうか。


災害時の対応マニュアルというのは、すべての分娩施設を視野にいれたものにするべきです。
特に日本看護協会が出すのであれば、助産師のいない施設に勤務する看護師さんにも役立つものでなければならないはずです。


私にはこの「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」は、助産師による助産師のいる分娩施設のためのマニュアルづくりにしか見えないのです。



日本看護協会から出すのであれば、産科看護を基本として、助産師のいない看護師さんが支えてきた施設でも活用できる内容になるとよいのではないかと思いました。





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