液状乳児用ミルクの普及を望んでいます

前回の記事で食品安全情報blogの畝山智香子先生から、「北米から日本が導入してほしいもののひとつがすぐに飲ませられる、調乳済み液状ミルクです」というコメントをいただきました。


私も昨年の震災時に、産科施設での防災物資として液状乳児用ミルクと使い捨て哺乳瓶の必要性を痛感しました。
またあの未曾有の広範囲の地域の被災状況に心を痛めた海外在住の方たちからなんとか液状乳児用ミルクを送ろうとされていたことも、当時はネット上で関心を持って情報を追っていました。


阪神大震災の後から何度も国内の災害時に液状ミルクの市販を求める声があったにも関わらず、日本ではまだ販売の可能性もないようです。

日本乳業協会では規格を作るよう、2009年に厚生労働省に要望した。ただ安全性を評価するためのデーターなどを業界側が提示する必要があり、「需要があるかどうかわからない」(同協会)として準備は進んでいないという。
YOMIURI ONLINE 2011年12月2日記事より)


<安全な調乳と保存取り扱いに関するガイドライン


実は、災害時だけでなく平時の安全な調乳のために2007年にWHO/FAOが共同作成したガイドラインでも、液状乳児用ミルクの使用を勧められています。


乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取り扱いに関するガイドライン(仮訳)より

PIF(*)は、無菌の製品ではなく、重篤な疾病の原因となりうる有害細菌に汚染される可能性がある。正しい調乳と取り扱いによって、疾病のリスクは減少する。
可能な限り、リスクの最も高い乳児には商業的に殺菌されたすぐに使える液状乳児ミルクが推奨される。
滅菌した液状乳児用ミルクには病原菌が存在せず、感染のリスクもない。
しかし、液状乳児用ミルクの使用が必ずしも選択肢とはならず、PIFの使用が必要となることもある。(p.10)

(*)PIF,powder infant fomula 乳児用調整粉乳のこと。


いわゆる粉ミルクによる感染がおこる原因として、粉ミルクを製造する過程で汚染される内因性のものと、調乳から授乳までの間に汚染された水やスプーン、哺乳瓶などの器具の使用による外因性のふたつがあります。


家庭で不適切に調乳されたり、調乳後のミルクの管理が悪くて感染を起こしたような例はあるかもしれませんが、国内の医療機関で調乳による院内感染の報告の記憶はありません。


<日本の産科施設での調乳>


実際に日本の産科施設でどのような調乳が行われているかというと、小規模な施設であれば家庭と同じように授乳のたびに必要な量のミルクを粉ミルクから作っている方法がひとつ、もうひとつは新生児の多い施設や入院患児のいる病院・周産期センターのように栄養士さんが清潔的な操作で一括して調乳し、冷蔵保存して使用時に必要な量を加温して使用する方法に分けられます。


いずれにしても、日本では大量にミルクを使用するような産科施設でもいまだに粉ミルクからの調乳のみが行われています。


<産科施設での清潔な調乳に必要なこと>


粉ミルクからそのつど調乳する場合でも、調乳ずみのミルクを小分けして使用する場合にも、まず第一に清潔な水、石鹸を使用しての手洗いとペーパータオルによる乾燥が必要です。


哺乳瓶や乳首は薬液あるいは滅菌器などによって、適切に消毒されている必要があります。
使用後には、洗剤と十分な水を使用して汚れを落とすことも大事です。



調乳の際には70度以上の熱湯が必要です。滅菌水で調乳する場合もありますが、通常は水道水を使用しています。
調乳後のミルクを一時的に保存する場合には、5度以下の冷蔵庫が必要です。


安全な水、安定した電力、信頼できるさまざまな製品、どれ一つが欠けても調乳を介した感染のリスクが高まります。
こうして考えると、今まで国内の医療機関での調乳を介した院内感染が報告されていないというのは、実はとても恵まれた状況だったということを痛感します。


<災害時の調乳、授乳の大変さ>


災害直後の電気、水道、ガスがいつ復旧するかわからない混乱の時期には、手を清潔に洗うこと、哺乳瓶を洗い消毒すること、調乳用の清潔なお湯の確保など不安はつきません。


産科施設でも、避難所でもあるいは被災地の各家庭でも、液状乳児用ミルクがあれば、哺乳瓶の清潔さえ確保すればよくなります。


さらに、水の使用を最小限に抑える必要がある場合には使い捨て哺乳瓶も便利だと思います。


製品化された液状乳児用ミルクは、粉ミルクに比べて容量が大きくなるので輸送や備蓄スペースの問題が出てくる可能性があります。
ただし粉ミルクの場合でも、水・消毒物品とセットにして備蓄する必要があるので、災害直後はまず液状乳児用ミルクや使い捨て哺乳瓶を配布し、状況が落ち着きしだい粉ミルクと通常の消毒に戻していくようにすればよいのではないかと思います。


液状乳児用ミルクの難点として、200mlとか一定の規格しかないのでひとりひとりの哺乳量にあわせにくく無駄がでやすいという可能性があります。
今回、海外から送られた液状乳児用ミルクが実際にどのように使われていたか、是非知りたいものです。


医療現場では、以前はガラス容器だった20mlの注射用糖水や多くの薬剤は、現在プラスチック容器になりました。
液状乳児用ミルクもそのくらいのサイズのものを製造してくれると、産科施設では無駄がなく使いやすいです。


<水の安全性についての課題>


昨年の震災直後に、私の勤務先がある自治体でも水道水の放射性ヨウ素の検出の可能性があり、水道水は出ているけれど調乳用の水を確保する必要がありました。それを機に、ミネラルウオーターの備蓄とウォーターサーバーの利用を開始しました。


ミネラルウォーターなども開封直後であれば、雑菌の混入は少ないと考えて災害時であれば沸騰させずにそのまま調乳に使用することも出てくることでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120311の記事で紹介した日本小児科学会の「避難している乳児支援のポイント」の中でも、「お湯が用意できない時には、衛生的な水で粉ミルクを溶かす」と書かれています。


気になるのは、塩素が含まれて消毒されている水道水に比べ、ミネラルウオーターやウォーターサーバーの水の中での雑菌の繁殖はどうなのかと言う点です。
開封後、常温でどのくらいの期間内に使用したほうがよいのか調べてみたのですが、具体的な指針を見つけることができずにいます。


そいういう水の安全性という点からも、やはり液状乳児用ミルクは滅菌されて製品化されているのでより安全性が高いと思っています。


次の大きな災害が来る前に、液状乳児用ミルクの実現化に多くの方の関心が集まってほしいと思います。




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