社会の現象や事実を観察する

ネジバナが咲く季節になり、そこから観察することについて考え、ようやくぽむぽむさんのコメントへの答えにたどり着きました。
ぽむぽむさん、大変おまたせいたしました。


ぽむぽむさんが「なぜそんなにミルク育児に拒否感があったのか」について書いてくださった理由の2つめについて、考えてみようと思います。
理由1についてはまた、後日考えますね。

(理由その2)乳業会社への漠然とした不信


これは何の根拠もないのですが、「産院と乳業会社が結託して、新生児に不必要なミルクを与え、牛乳消費を底上げしようとしているのではないか」と思っていた気がします。
また乳業会社が、病院への営業にずいぶんな費用をかけている(そのため病院で使われていない粉ミルクは安いらしい)という知識もありました。
そのため、病院側にも、粉ミルクの利用を促がすと何か得な事情があるのではないかと心のどこかで疑っていたのだと思います。

このぽむぽむさんが疑問に思っていらっしゃる「新生児用ミルクを販売することがどれくらい牛乳消費につながるか」「病院への営業にどれくらい費用をかけているのか」「病院側にどれくらい見返りがあるのか」については、私自身も明確な資料がないことを最初に書いておきます。


私自身も1980年代半ばにネスレボイコットを知った時には、哺乳瓶やミルクを見ると少し憎悪に近い感情が沸きあがっていたことは、このあたりの記事から書きました。



<医学的根拠がないまま始った粉ミルク批判>


当時東南アジアで暮らして、貧困層の栄養失調や乳幼児死亡率の高さを目の当たりにすると、「不衛生な調乳による被害」がまるで事実のように見えたのでした。


でも実際にあちこちの村を訪ねてみると、まず高価なミルクを購入できる家庭自体が少ないですし、ミルクを足せばもう少し栄養状態が改善するのではないかと思われる子ども達の姿の方が多いと、私は観察しました。


ネスレボイコットでいわれたような開発途上国の実態は、本当にあるのだろうかと疑問に感じ始めました。


百歩譲って、途上国での乳児死亡に粉ミルクが関連しているとすれば、粉ミルク自体ではなく不衛生な水や哺乳瓶・人工乳首の方が問題のはずですが、なぜか哺乳瓶メーカーはボイコットの対象にはなりませんでした。


何より、本当に粉ミルクは乳児感染症を増やしたのかについて、未だに納得できる医学的根拠の書かれた資料は、母乳推進団体でさえ提示していません。


「乳業会社への不信」は、何か作られたイメージではないかと疑い始めたのでした。



<産院と乳業会社の関係の事実とは何か>


乳幼児用ミルクを必要としている乳児はいる。
この大前提にたっても、実際には医療機関では乳業会社との取引きを目にします。


現在はだいぶ減ったのかもしれませんが、さまざまな備品(ポットや授乳用クッション、哺乳瓶など)を無償提供してもらったり、医師や事務へのポケットマネーもあったのだと思います。


その点に関しては、経済的なルールが必要だと私も思います。


ただ、小児科学の発展は粉ミルク開発とともにあったとどこかで書かれていたのを目にしたことがありますが、乳幼児用ミルクの開発のためには、乳業会社と医師との連携が必要なのは他の医薬品や医療機器も同じといえるでしょう。


特に、おそらく採算のとれないようなアレルギー用ミルクや特殊ミルクの開発を担ってきたのも乳業会社であることを考えると、不信感はそういう事実を観察する目をも曇らせてしまうように思います。


<受け取る側ではなく、乳業会社への批判ばかり>


さて、私たちの生活はちょっとした「おまけ」あふれています。
商店に並んでいるものにおまけがついていたり、何かを買うとおまけがあたったり、あるいはスタンプが貯まると得するものに喜びを感じます。


たとえば、ぽむぽむさんのブログ「妊娠出産をただただ記録するブログ」にも、さまざまな得するキャンペーンの紹介があります。


それらの得するキャンペーンと乳児用ミルクのおみやげなどとの差は何なのでしょうか。
本当にミルクなどのおみやげをもらうと新生児に不必要なミルクを与えるきっかけになるのでしょうか?
母親はミルクのおみやげでだまされるほど、不必要なミルクへの誘惑はあるのでしょうか?


お母さん達の悩みを聞いていると、やはり生活上でミルクが必要だったのだと思います。


それはミルクを使わなければ解決するとか授乳の仕方などのテクニックでは解決できない、社会的な問題へのアプローチが必要ということなのです。


2000年代に入って、母乳推進運動で積極的に発言する産科や小児科の先生方が増えました。
体重増加だけを見てミルクを足すように言われた時代を考えると、心強い変化だと思います。


ところが、そういう先生方の書かれる粉ミルクへの批判では、医師と乳業会社がどのような関係があって、どのように改善していくべきかという点にはふれず、型どおりの乳業会社への批判しか書かれていません。


それは調整乳反対キャンペーンをそのまま信じているからではないかと思えるのです。


<メーカーが産院での宣伝活動で得る利益はどれくらい>

ぽむぽむさんの疑問の中に「産院で使用しているミルクはメーカーからの無償提供ではないか?」というものがありました。


どれくらい産院で使用するかというと、私の勤務先のクリニックでは1ヶ月に大缶1〜2缶程度です。
分娩数が多い施設では、もっと使用することでしょう。
おそらく、としか書けないほど施設側とメーカー側の契約について私たち看護職は知る立場にないのですが、使う分は購入という形ではないかと思っています。


ただ、実際に調乳しているところをお母さん達にみせているわけではないので、どのメーカーのものを使っているのかはわからないと思いますし、お母さん達からもメーカー名を尋ねられることもありません。


最近はどこのドラッグストアーでも値引きされて、質の良いミルクをそこそこの値段で購入することができます。


産院での宣伝活動がどれだけメーカーの利益になるかというと、むしろ手間隙かけているわりには少ないのではないかと思えるほどです。
むしろ、医師側からも便益を求められていた立場が続いていたのではないかと見えてしまいます。
乳業会社の販売促進方法を批判される産科・小児科の先生方から、是非、実情と改善案を教えて欲しいと思うのですが。


プロパガンダの裏にあるものを観察する>


なぜこれまでに完全母乳という言葉について、あるいは乳児用ミルク哺乳びんについて連続した記事を書いてきたかと言うと、なぜ私自身が1980年代に哺乳瓶や粉ミルクに憎悪感を持ったのか、その背景にあるプロパガンダはなにかということを考えてみたかったからです。


母乳にしてもミルクにしても、どのような方法が赤ちゃんお母さんにとってよいのか、観察の積み重ねと仮説の実証によって支援方法をよりよくしていきたいと考えています。


ところが、たとえば日本ラクテーションコンサルタントのIBCLCという民間資格では「IBCLCによる母乳支援に関する『10のコンセプト』というものがあります。
その中には以下のようなものを、IBCLCは求められています。

2.IBCLCは、母乳育児は無比のものであることを認める

4.IBCLCは、母親の”力”を信じる


観察にもとづくよりよい授乳支援方法のためには、信念は脇に置いた方がよいのではないかと考えています。


社会の事象に関しても拙速に受け入れることなく、いろいろな方向からまず観察してみることが大事ではないかと思います。
そしてなんらかのプロパガンダを受け入れたのはなぜ、どういう状況だったのか、自分自身をも客観的に観察することが大事だと思います。