事実とは何か 64 ニュースに求めるのは物語ではない

いつ頃からなのか記憶にないのですが、何か事件や事故があると通行人や近隣の住民のインタビューがニュース映像に組み込まれるようになりました。

あるいは専門家やコメンテーターという人たちの、「印象」「推測(憶測)」と言った話もそうですが。

 

何が起こったのかもまだわからないうちから「現場の状況」「犯人像」「人間関係」などが次々と話題にされて、いつの間にかその事件や犯人のイメージが出来上がっていく怖さを感じることがあって、わからない状態に耐えることについて書いたのが、この「事実とは何か」の最初でした。

 

事件だけでなく、良いことの報道でも、さまざまな人の感想を織り込んでニュースというよりは「物語」になってしまっている感じです。

 

先日の「液体ミルク  こんなところでも...」(NHKおはよう日本」 2019年6月13日)も、その印象が強く残りました。

 

実際に利用した方の、「すぐに飲ませられて、おとなしく泣き止んでくれる。それが一番ほっとしてうれしいです」という感想だけで十分だと思うのですが、以下のように展開されていました。

夫も夜間の授乳を進んで引き受けるようになり、さらに、高齢のため育児を手伝えないと言っていた牧田さんの両親も、授乳に挑戦。

手軽に使えるようになることが液体ミルクのメリットですが、「育児に参加」「育児を手伝う」といった物語に使われてしまったのではないかと。

 

*話題作りではなく、社会の全体が見える情報が欲しいな*

 

液体ミルクが予想以上に広がっていることは本当によかったと思うと同時に、現時点で知りたいのはもっと現実のさまざまな反応でした。

 

たとえばその番組では、分娩施設でも使われ始めていることが紹介されていましたが、「人手が少ない中でも、待たせることなくミルクを渡すことができ、スタッフに余裕が生まれました」という「物話」になっていました。

 

調乳に手慣れているスタッフなので、粉ミルクを調乳するのもパックから液体ミルクを分けるのも、おそらく30秒も違わないだろうと思います。

分娩や入院が重なって調乳さえ手間になるくらいの人手不足なら、そもそも授乳や赤ちゃんの世話を見守ってケアするのに根本的に人が足りないのです。

その点では液体ミルクが人手不足の救世主かのような物語にされたら、産科病棟の看護スタッフの労働の実態もうやむやになってしまいます。

 

 

番組の中では「40mlです」とお母さんの元にスタッフが持っていったのですが、現在販売されているのは125mlと240mlですから、一回開封したものを数回に分けて使用しているのかもしれません。

だとすれば、その管理の方が手間になりそうです。

産科施設で使うミルクの一回量というのは、10mlとか20mlから始まりますから、現場としては、注射用糖水や注射用生理食塩水のような20ml単位のブラスチックの容器に入った液体ミルクがあると効率的ですし、無駄も少なくなります。

 

実際には使いづらかったり、赤ちゃんの口に合わないとか、さまざまな感想があるのではないかと思います。

話題作りではなく、もっと社会全体が見える情報がニュースになると良いと思いますし、全体像がわからないうちは慌ててニュースに仕立てなくてもよいのではないかと思いました。

 

 

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