院内助産とは 8 <院内助産のメリットとデメリット>

産む人にはきちんと院内助産のメリットとデメリットは伝わっているのでしょうか?


その前に院内助産を推進している側は、院内助産のメリットとデメリットをどのようにとらえているのでしょうか。


厚生労働省医政局看護課が出している「院内助産所助産師外来について」の中に、「院内助産所助産師外来の効果」が書かれています。
2009年3月に厚生労働省主催の「妊産婦を支える医療者の協働をめざすシンポジウム」の資料として使われたもののようです。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1104-3j.pdf



助産師・医師の部分はおいおい考えていくことにして、今回はその中の妊産婦さんについての部分だけを引用します。

・外来は、完全予約制で待ち時間が無い
・30分(一部60分)かけて何でも気安く聞いたり話し合ったり出来る
・夫や上の子供も一緒に話し合ったり、エコーを見ることができる
助産師の役割を知り、親しくなれてお産を安心して迎えられる
・何か心配があれば医師と相談してくれるから安心
・自然なお産ができる
・出産に主体的に臨める


<それらは院内助産所助産師外来でしか得られないものなのか>


これらのことは「効果」というのだろうかという素朴な疑問と、日頃は看護実践の中では看護目標を定めるときに何を表現したいのか一字一句厳しく問われているはずなのに厚労省が出しているこの漠然とした内容は何なのだろうというのが第一印象です。


妊産婦さんは、これを読んで院内助産を国が進める理由が理解できるのでしょうか?


「外来は完全予約制で待ち時間がない」は、多くの産科施設で努力しているところではないかと思います。
なぜ待たされるか。
それは分娩や緊急の処置が入って、外来の医師が応援に行く必要がある場合があります。これをなくすには、産科医を確保するしかないことです。


では助産師外来で30分あるいは一時間も相談に応じることができて、待たせることをしないシステムのためには、どれくらいの助産師が必要でしょうか?
どんなに産婦人科外来や病棟が忙しくても、助産師外来だけはゆったりと予約をした方に関わることができるような助産師の配置をするのでしょうか?


助産師外来を受けられる方は「問題のない経過の方」です。
妊婦健診を受けている方には合併症を持った方、妊娠経過に産科的に不安がある方、家族内あるいは社会的に問題を抱えている方などなど、助産師にしたらしっかり関わる必要性のある方たちが多くいらっしゃるのです。
今まではあえて「助産師外来」という場がなくても、こういう方の妊婦健診には優先的に助産師が関わるように各施設でスタッフの配置を工夫してきたのではないかと思います。


現場ではそういう方たちへまずしっかり関われる時間とスタッフを確保できることが願いでもあるのですが、厚労省看護課の優先度の認識は誤っているといわざるを得ません。


「夫や上の子供も一緒に話し合ったり、エコーを見ることができる」
私の勤務先でも医師の診察時に夫や子供も一緒に入っていますが、こういう施設もあることでしょう。特に助産師外来の「効果」ではないと言えます。


助産師の役割を知り、親しくなれてお産を安心して迎えられる」
助産師の役割を知り」ここが厚生労働省看護課の最も目的としているところと言えるでしょう。
正常に経過している限り、医師と対等に妊婦健診をする助産師、分娩の主導権を持つことができる助産師をアピールしたいのだと思います。


だからさらりと助産師外来で助産師が医療機器であるエコーを使っていることを、その法的根拠もあいまいに「効果」の中に書き込むことができるのでしょう。


国側から「院内助産助産師外来の効果」として、「自然なお産ができる」「出産に主体的に臨める」と言われて、理解し納得できるものなのでしょうか?


<メリットとデメリットの比較>


「何か心配があれば医師と相談してくれるから安心」


看護課が出している資料でも、あるいは院内助産を勧める側が書いた文献を読んでも、メリットは強調されていますがデメリットについても書いてきちんと比較できるように書かれたものは目にしたことがありません。


院内助産のデメリット、それはもっとも大事な分娩時の危険性(リスク)と言い換えても良いでしょう。


なぜかそのあたりを明確にしていなくて、最終的には「医師がいるから安全」と医師に責任を放り投げているのです。


通常、新しいシステムを取り入れる場合には、想定しうる限りの危険性とその予防策、あるいは起きた時の対処方法までシュミレーションしてから実施するものだと思います。


「院内助産助産師外来」の言葉とよいイメージだけを作って、「それぞれの施設の判断に任せて、これといって院内助産として明確に決まったものはない」内容で、現場に責任は丸投げのいわば羊頭狗肉になっているのではないでしょうか?


まずは、勧める側がきちんとデメリット、危険性に対する予防策まで明らかにする必要があると思います。




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