助産師と自然療法そして「お手当て」 43 <赤ちゃんの「頭のゆがみ」とは?>

先日、退院間際のお母さんが「こわいことが書いてあるから」とゴミ箱に捨てていたので、そのパンフレットをもらって帰りました。


トコちゃんベルトを購入されたときについてきたパンフレットだそうです。
「トコちゃんのベビーケアー  おかあさん!赤ちゃんの頭をゆがませないで!」と表紙には書いてあります。


母子整体研究会やトコちゃんベルトを販売している会社の広告を「助産雑誌」などで時々見かけていたましたが、赤ちゃんの「頭のゆがみ」あるいは胎内での「ゆがみ」について書かれていたので気になっていたものでした。


その内容について考える前に、「あたまのゆがみ」についての考え方を紹介します。


<「頭が変形していますが直りますか?」>


新生児期から乳児期にかけてのいわゆる「向き癖」や「あたまのゆがみ」は不安に思われることのひとつで、私たち助産師もよく質問を受けます。


助産師も自身の子育て経験や他のお母さん達の話などの「個人的体験談」から「これがいいよ」といいたくなることもあるかもしれませんが、医学的に標準的な考え方を押さえておくことは大事だと思います。


「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(「周産期医学編集委員会編」、東京医学社、2009年)の「152.頭が変形していますが直りますか?」についての回答内容を抜粋します。

回答のポイント


1.多くの変形は坐位や立位など頭部を起こす時間が長くなると自然と矯正されていく
2.変形があっても脳実質や精神運動発達に影響はない
3.変形が強い場合には頻回の頭部の位置変更や矯正器具を考慮する。
4.異常顔貌やほかの外表奇形を伴う場合は骨縫合早期癒合症の有無に注意する。

実際に多くのお母さんへの回答は上記の1と2を踏まえた内容で十分だと思います。
3、4の場合に、私たち助産師がお母さんたちに関わるとすれば、当然、医師の診察と治療計画の上です。


上記の本では、通常のいわゆる「向き癖」について、お母さん達にわかりやすいように回答モデルが書かれていますので紹介します。

1.体位による変形性斜頭の場合


 胎内での赤ちゃんの頭の向きや位置によって、また分娩のときに狭い産道を通過する時に頭が圧迫されることによって、そのほかでは、出生後の頭の向き癖などによって赤ちゃんの柔らかい頭の形はしばしば変形することがあります。しかしほとんどの赤ちゃんでは、おすわりや立つ時間が増えて頭へ加わる圧が減ってくると、また脳の成長に伴い、変形した頭は自然に矯正されていきます
 頭の形が歪んでいるからといって脳の成長、機能への影響はありません。したがって発育発達への影響についても心配なさることはありません。よく円座枕やタオルなどを使って寝かせることもありますが、大抵は、ずれてしまって効果がないことが多いですね。気になるようであれば、ときどき気がついた時に頭の向きを変えてあげたり、少し抱っこをしてあげる時間を増やす程度で様子をみてもらえばいいと思います。ただ後頭部が扁平だからといってうつぶせ寝にすることはお勧めできません。これはうつぶせ寝が乳幼児突然死症候群のリスクを高めるといわれているからです。でも変形が強くどうしても気になるようでしたら、ヘルメットやバンドを使った矯正危惧を利用する方法もありますので、またご相談ください。

最後の部分の「ヘルメットやベルトを使った矯正器具を利用」というのは、あくまでも「治療」ですから相談機関は小児科へといういう意味です。整体その他の代替療法ではありません。



つまり、「あたまのゆがみ」への不安に対しては上記の内容をアドバイスすれば十分な対応になります。


お母さん達が不安にかられてさまざまな物品を購入したり、「施術」が必要と思いこまなくて済むようなアドバイス助産師もする立場にあります。



でも一旦、不安なことを聞いてしまったお母さん達に、このシンプルなアドバイスがどこまで伝わるものでしょうか。


パンフレットをゴミ箱に捨てたお母さんにもこういうお話をしたのですが、どこまで通じたでしょう。


「赤ちゃんの頭をゆがませないで」という助産師は、日々、たくさんの乳幼児を診察している小児科の先生方も気づいていない何か大発見があるのでしょうか。
そのあたりを次回からみていこうと思います。


それにしても「自然に頭の形は矯正される」という自然な経過を認めない不自然さですね。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら