院内助産とは 31 <イメージだけで広がる危険性>

助産師と整体について書く予定でしたが、今日は久しぶりのこのシリーズに続く院内助産についてです。


先月27日に「とくダネ」で助産院についての報道があったそうです。


残念ながら番組は見逃しました。


体温が34度台にまで下降して保温もされていない新生児仮死、しかも低出生体重児がいきなり搬送されてきたら、受け入れ先の病院では本当に大変だっただろうと思います。


「新生児を温めるということ」で書いたように、急速に保育器内の温度を上げる必要がありドライヤーを使用したと報道されていました。


結果、患者さん(新生児)の身体に重篤な障害を残す医療事故が発生してしまったわけで、医療事故については経緯がどうであれ再発防止ということで重く受け止めなければならないことでした。


でもそれでなぜ救命に関わった小児科医の先生方が刑事訴訟を受けなければいけないのか、全く理解できないものでした。


そのあたりについても何か番組の中で追求がされていたのだろうかと、少しネット上で情報を追っていました。


そこでびっくりしたのが、開業助産所ではなく院内助産での出産が代替案かのように放送されていたらしいということです。
いぇ、実際に見ていないので、どういうニュアンスだったのかはわかりませんが。


いずれにしても、今、このタイミングで「院内助産」はないでしょう?と思い、久しぶりの院内助産シリーズを書こうと思ったのでした。
前振りが長くなってすみません。


<医師のいないところで出産すること>


今回の事件の根本的な問題は、医師のいない助産所で新生児仮死と思われる赤ちゃんへの対応が遅れたことにあると考えています。


新聞などの「出生直後に弱く泣いただけ」「酸素を投与した」「元気がなかった」といった情報を見れば、おそらく少なくともアプガールスコアーが7点未満の新生児仮死であった可能性があります。


こういう赤ちゃんの場合、自発呼吸さえあればまずは保温器での保温です。
何よりも保温です。


保育器の中に入れて全身を温めて、それ以上に体温が下降しないようにするだけで元気になる場合もあるからです。


まして低出生体重児(2500g未満)であれば、皮下脂肪が少ないので環境温度の影響を受けやすく、またさらに低体温から低血糖を起こしやすくなるので一気に状態が悪化する可能性があります。


今回の事件の経緯をみれば、助産所には保温するための設備がなかっただけでなく、助産師自身がすぐに保温することの必要性(しないことの危険性)を認識してなかったと思われます。
「なんとかなる」とインタビューに答えていたので。


では、助産所も保育器を有すれば対策になるのでしょうか?


「保育器が必要」というのは、その赤ちゃんを診察しいつでも治療ができる医師が必要ということなのです。


助産所でも保育器を常備するのであれば、医師も常時関われる体制にするということです。


1950年代にできた助産所という分娩施設が1970年代をピークに減少して1980年代にはその役割を終えるはずだった、それが出産の医療化ということなのですから。


<院内助産という実態のない言葉>


では、医師のいる病院の中の「院内助産」なら、すぐに医師が駆けつけてくれるから安心なのでしょうか。


たしかに、距離的には院外の助産所からの搬送よりは近いです。


でもその根底にある「経過に問題のないお産には産科医は手を出すな」という思想が問題なのです。


助産師側のそういう思想が、「産科医の立ち会わない出産の場」のほうがよいものという無用の価値観と先入観を出産する女性に植え付けてしまったこと。


その思想が、病院でありながら医師の手の届かない院内助産、という場を作りだしてしまいました。


なぜ、出産の場に医師がいてはいけないのですか?
医師がいると、出産の快適性は損なわれるのですか?


この「院内助産」という言葉を世に広げてしまったマスコミの方がたには、もう一度その言葉の意味を問い直して欲しいと思います。


そして華々しく院内助産を始めたけれど、すでに閉鎖してしまっている施設を取材して、是非その真実を知らせてください。
ええ、私たち助産師の多くもその実態を知らないので。




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