助産師の開業権とは何か 11 <「開業」にこだわりすぎたために見失っているのでは>

久しぶりのタイトルですが、2012年のこちらの記事から始まりました。明日にでもまとめを作ろうと思います。



産後うつ予防、健診2回分助成」のニュースを読んで、詳細はよくわからないのですが感じたことをこちらの記事こちらの記事に書きました。


正直なところ、産後2週間健診を増やすことが産後うつ予防や自殺予防にどれだけ役に立つのだろうかと、日々、産後のお母さんの一部を見ている立場としては何か違うような気がするのです。
でも何が違うのか、もっと他に優先順位の高いかかわり方があるのではないかと漠然とは思うのですが、その臨床経験を言語化できないところにもどかしさを感じています。



そしてそのジレンマは、私個人の能力の限界だからとか精神科という専門外だからということではなく、助産師全体の問題に通じるているのだろうと。



<ケアのニーズを社会化できる立場にあるのに>


産後ケアという言葉の明確な定義はないのですが、少なくとも、産褥期の女性に出産直後から退院後まで継続的にかかわることができる職種が助産師です。



分娩施設でのフォローが産後1〜2ヶ月、時には授乳相談として1年ほど続きます。
退院後の新生児訪問や助産所での相談で、かかわる助産師もいます。


そして退院後からは地域の窓口となる保健師さんや小児科勤務の看護師さんたちとも、地域内で連携を広げていくことができる立場です。


「 ケアを必要とする側がケアを担う」で紹介した上野千鶴子氏の文章を再掲します。(この記事のコメント欄も読んでいただけたらと思います)

育児や介護が私的な領域に封じこめられているあいだは、誰も社会問題を認識しなかった。


妊娠を継続するかどうか(中絶するかどうか)。
仕事をどうするか、経済的にどうするか、あるいは子どもを育てるためにどこに住むか。
つわりや切迫流早産、その他の合併症の予期せぬ長期の入院や通院。
胎児や生まれて来た赤ちゃんの予期せぬ病気による通院や児の介護。
心身の変化に伴って、成人として自立して来た生活の変化。
産後の不調が長引くのに、誰も手伝いがいない状態。
さまざまな諸問題を誰にも相談できず、見通しも立たない不安。


妊娠・出産によっておこるさまざまな変化は大きな不安をもたらすものです。
そして経済的な問題と家族との関係ものしかかります。
ところが、相変わらずそれは私的領域(プライベートな問題)であり、自分でなんとか解決するべきことだと思われているのではないでしょうか。


かくいう私も、ずっとそのことに気づかず、お産と授乳のことに一生懸命になっていました。


新生児訪問をしたことで少し視野が広がり、そして自分の親の介護が現実の問題になったときに、ケアマネージャーを核として次々にケアの問題が社会化されていく介護の世界に驚きました。
我(出産・育児のケアの専門家)と彼(介護の専門家)の差を。


現実の問題を観察し、社会にその問題提起をすることができ、さらに継続的にかかわれるシステムを作れる立場にいながら、それをしてこなかった。



助産師の「問題の社会化」を阻むもの>



それは何故なのだろうと考えていますが、助産師全般の傾向として、目の前の妊産婦さんの問題は何か観察し、その問題点の事実は何か判断し、そして記録に残すという基本がないのだろうと思います。


そして、地域内であるいは全国でその問題を共有するシステムがありません。
一施設で感じた問題は、永遠にその施設内に埋もれたままです。
「症例研究」のように発表する場もありません。
あれば、他の施設でも同じような問題を経験したことがわかり、そこから問題の社会化の一歩になることでしょう。


また、問題を継続的につなげるシステムも不十分です。
現在は、入院中から保健センターへ連絡をして早期の新生児訪問につなげる方法もできましたが、まだまだ不十分です。


そして一番怖いのが、こちらの記事に「何かあったら、早めに新生児訪問を受けてみてね」と伝えたものの、どんな助産師が訪問するかわからないことです。
代替療法に引き込む助産師にあたったら、問題の社会化は遠のき、ますますプライベートな問題に落とし込まれることでしょう。


助産師が開業権を死守することに必死になり、ケアの社会化を阻むイデオロギーを取り込んでしまったことで、標準的なケアというものが遠のいてしまいました。
「このお母さんと赤ちゃんを地域の助産師につなげたい」と思っても、あやしい助産師ではないかと警戒感もあります。


そして助産師全体に、良いお産とか母乳育児にお母さんを追い詰めてしまっているのではないかと思います。


そのあたりを見逃したまま産後の健診を2回に増やしても、本当にお母さんと赤ちゃん、そして御家族のためになるのでしょうか。





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