母乳育児という言葉を問い直す 23 <「母乳権」>

「母乳権」という言葉を初めて聞いたのは、桃さんのコメントでした。



「母乳権」とはまたなんと穏やかではない表現かと驚いたのですが、コメントをいただいてすぐに検索してみたところ、母乳権を掲げている産科施設もあってびっくりしました。
この「母乳権」という表現について、じっくり考えてみる必要があると気にはなっていたのですが、あまり気が進まないのでそのままにしていました。



先日、病棟にこの7月に開催されるシンポジウムのお知らせが来ていました。
その基調講演に「母乳権、そしてやさしさをどう考える」とありました。


<「母乳権」はいつ言い始められたのか>



「母乳権」で検索すると、「新オッパイア・ラ・カルト」というサイトの「母乳権」に以下のように書かれていました。

国立岡山病院名誉委員長故山内逸郎先生は、1989年国連での子ども権利条約の採択を受けて、赤ちゃんを母乳で保育することは、新生児・乳児にとって基本的な権利であるとして、新たに母乳権という概念を提唱されました。


1989年。
当時はAIDSとかHTLV-1とか母乳が感染経路となる疾患が明らかになったり、内科疾患合併の妊婦さんが治療を継続しながらそれまではかなえられなかった妊娠・出産ができるようになったり、NICUが全国に広がって、周産期が大きく変化していた時期でした。


むしろ、たとえそれまでは「母乳で育てることが当たり前」とされていたとしても、「乳児が健康に育つためには母乳が優先順位ではない」と言える時代に入ったといえるのだと思います。


その「母乳育児実践に熱心な産科医・小児科医によって母乳をすすめる為の産科医と小児科医の集い」が1992年に開かれて、それがのちに「日本母乳の会」となったようです。
そして赤ちゃんに優しい病院(BFH)の認定が日本にも取り入れられました。



<「権利」とは>



権利、特に新生児や乳児の権利をどのようにとらえるのか、私自身はよくわからないのですが、UNICEFの「子どもの権利条約」の4つの柱にはこう書かれています


◎生きる権利
子どもたちは健康に生まれ、安全な水や十分な栄養を得て、健やかに成長する権利を持っています。


◎守られる権利
子どもたちは、あらゆる種類の差別や、虐待、搾取から守られなければなりません。
紛争下の子ども、障害をもつ子ども、少数民族の子どもなどは特別に守られる権利を持っています。

「育つ権利」と「参加する権利」は幼児や小学生以降の子どもを想定していると思われるので、最初の二つが新生児や乳児に関係があるかと思います。


この「生きる権利」ひとつをとっても、世界中いろいろな状況のなかで何が正しいのか答えのでないものではないかと思います。


なぜ人間の新生児は出生直後からあまり飲まずに体重が減るのか、なぜ母乳は最初の2〜3日あまり出ないのかよくわからないのですが、その2〜3日をなんとか無事に生き延びさせることにも、まだこれといった方法が確立されたわけではありません。


母乳だけを吸わせていれば大丈夫と思い込んだ結果、重篤な脱水やけいれんを起こすことがわかりました。
やはり時にはミルクも必要。


あるいは栄養失調児の親もまた栄養失調な状況は、世界中いたるところにあるわけです。


では「母乳権」とはなんでしょうか?




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