新生児のあれこれ 57 <新生児とはどういう存在なのか>

定義的には生後28日未満の時期の乳児を指す「新生児」ですし、一生の中で一番弱い時期というニュアンスも実感していますが、その時期の特徴を簡潔にまとめるには状況が多様すぎるのか、未だに「新生児とはどのような存在か」とまとまった内容に出会っていません。
もちろん、新生児学として数百ページあっても足りないほど、その医学的な説明があるのですが、日々接している新生児を表現するには、まだまだ何か足りない。
そんなジレンマがあります。


たとえば、前回の記事で紹介した私の1960年代初頭の母子手帳に使われている「新生児」と、現在の妊娠初期から正確に分娩予定日を計算されて出生してきた「新生児」では、全く意味が異なります。


私が生まれた頃はまだ正確な妊娠週数がわからず、最終月経からの計算でしか、その胎児がどれくらいの週数であるか推測する術がなかったことでしょう。
個々の月経期間もバラバラですし、また正確に最終月経を記憶していない場合も多かったでしょうから、同じ「新生児」といっても早産児から過熟児まで含めた上での「生後28日間」だと思います。


おおざっぱですが、2000年代に入るころから妊娠の診断が正確になり、今では「この新生児は在胎36週4日の早産児」「この新生児は在胎41週6日の新生児」と在胎週数を正確に把握できるようになりました。
ここ20年くらいで周産期医療に携わるようになった方々には、「なにを当たり前のことを」という話ではあるのですが。


いつごろから「新生児」という概念が広がったのかまだ答えを探している段階ですが、それでも半世紀前の早産児や過熟児といったハイリスク児を除外しても、新生児期というのは特別の配慮が必要な期間であるのは変わらないし、むしろ、まだその生活者としての新生児という視点では十分にわかっていない存在だという思いが強くなりました。


<最近の新生児とは>


それでも、新生児学と新生児医療の進歩とともに、最近の母子手帳の「新生児」については半世紀前に比べてさらに詳しい説明がかかれています。
厚生労働省の「母子手帳について」の「任意書式」から、現在の母子手帳の「新生児(生後約4週間の赤ちゃん)」のページを読むことができます。


 生まれて約4週間、特に最初の2週間は、赤ちゃんがお母さんの胎内とはまったく違う環境の中で、自分の力で発育していくことに慣れる大切な期間です。
 下記のような注意をしながら、母体を離れての生活に無理なく慣れ、人生の第一歩を踏み出せるようにしましょう。

母子手帳の中でも、生後1週間はとりわけ「早期新生児期」として分けられていると思いますが、この説明の中では「得に最初の2週間」としている点もまた、さまざまな観察の積み重ねによって導かれた事実であると思います。


最近の母子手帳の「新生児」の説明で、私の頃にはなかった説明として「先天性代謝異常の検査を受けましょう」「新生児聴覚検査を受けましょう」「視覚の発達について」「乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防のために」「赤ちゃんを激しく揺さぶらないで(乳幼児揺さぶられ症候群について」「赤ちゃんがなきやまない〜泣き〜の対処と理解のために」などが書かれています。
VK2シロップと先天性胆道閉鎖症の早期発見のためのカラー印刷されたウンチカードは「省令様式」に組み込まれています。


そして正確な情報にアクセスできるように、信頼できるサイトのアドレスも書かれていて、本当に充実したものになっています。


ただこれを読んでも、「新生児」というのは特別な時期だと思うのですが、何がどう特別なのか、日々新生児に接しているのにまだうまく表現できないもどかしさがあります。



<本当にそれは観察をもとに考察されたものなのか>


それでも、厚労省の「新生児(生後約4週間までの赤ちゃん)」はわかりやすく簡潔にまとめられていると思うのですが、ただ一点、「母乳」という項目にひっかかりました。
「授乳」とか「栄養」ではなく、「母乳」という項目しかない上に以下のような内容です。

◎ 母乳


 新生児には母乳が基本です。母乳栄養は赤ちゃんの病気を防ぎ、赤ちゃんとお母さんのきずなを強くします。特に初乳は赤ちゃんが初めて口にする食べ物としてかけがえのないものですから、ぜひ与えたいものです。母乳がでないようでも、あせらずに赤ちゃんが欲しがるにまかせて根気よくすわせてみましょう。母乳の出をよくするには、お母さんが十分な栄養と休息をとることも大切です。
 授乳中はテレビを消して、ゆったりした気持ちで赤ちゃんと向き合いましょう。

ああ、惜しいなあ。
「授乳・離乳の支援ガイド」の「授乳の支援に関する基本的考え方」(p.14)には「授乳の支援にあたっては、母乳や育児ミルクといった乳汁の種類にかかわらず、母子の健康の維持とともに、健やかな母子・親子関係の形成を促し、育児に自信をもたせることを基本とする」と書かれているのですけれど。


新生児学や小児科学とその看護が、時々、出産や育児の小さな神になりたがる方向へずれてしまうのも、新生児や乳児の生活がまだまだ科学的な手法で観察されたり言語化されていないからかもしれません。


そのあたりが、もしかしたらY-Sanaさんが感じられた「権威」につながるのかもしれないとふと思った次第です。



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