助産師の世界と妄想 12 <妄想の世界にはリスクマネージメントということばは生まれない>

手元に「助産所開業マニュアル 2013年版」(日本助産師会出版)があります。


少し前に書店で見かけたので購入したのでした。


「はじめに」では「平成11年に初版を発行した」とありますが、1999年以降、書店でこの開業マニュアルが取り扱われているのを見たのは初めてでした。

本書は平成11年に初版を発行した。この書をひもとけば開業のノウハウが具体的に分かるようになっている。平成19年4月1日より、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律が施行され、産婦人科の嘱託医師と嘱託医療機関を定めることが義務化された。また、医療安全管理指針、院内安全対策指針、医薬品業務手順書、医療機器の保守点検に関する計画、整備が助産所に求められた。医療施設としての管理体制を整えるとともに、実際の助産ケアに関しては「助産所業務ガイドライン」を遵守していただきたい。

1950年代から助産所の開設が医療法で認められたというのに、1999年まで助産所開設に関するマニュアルがなかったことも意外ですが、それは風前の灯火になっていた助産所が1980年代後半になって脚光を浴びはじめたために必要性がでてきたという経緯ではないかと思います。


「はじめに」の中にある「助産業務ガイドライン」(pdf注意)の2014年版にあるように、ガイドラインは2004年に初めて作られました。


その背景には、琴子ちゃんと琴子ちゃんのお母さん、そしてご家族が「助産院は安全?」と社会に声をあげたことがあったのだろうと推測しています。



リスクマネージメントの視点が少ない>



パラパラと中を見て、期待したことがありました。
それは助産所リスクマネージメントについてどのように書かれているかという点でした。


全国の助産所でヒヤリとしたことやインシデントレポートを集めて、医療事故再発防止対策をたてるように改善されたのか。


ホメオパシーのような民間療法・代替療法を取り入れることについてのリスクマネージメントが明確に示されるようになったのか。


その2点を期待したのでした。


ところが、目次をみても「リスクマネージメント」という独立した項はなく、「事故の防止とトラブル発生の予防」は「助産師と保険」という中に含まれているだけです。
しかも以下のように説明されています。

医療事故は、単純あるいは基本的な確認ミス等、初歩的なケアレスミスであることが多い。それゆえ、一人ひとりの対象に基本的な事項から気を抜かずに関わることが大切である。

助産院は安全?」という問題提起や、あのホメオパシーの事故からの教訓が何も生かされていないと思いました。


あ、でも開業することなんて少しも考えていない私がこの助産所開業マニュアルを購入した理由は、「分娩期の助産技術」(p.91)に公然と「会陰切開術」と「会陰裂傷(切開)縫合術」の方法が詳細に書かれていたので、後日記事にするためでした。


まるで助産師にそれが法的に認められたかのようにするっと業務に入れられていることに驚きました。


看護師さんたちの内診では刑事事件にまで世の中を動かすのに、自分たちの医療行為には法的根拠は求めない。
助産師の、いえ一部の助産師のこのなんともアウトローな感覚の世界をもう少し考えてみようと、購入したのでした。


<妄想の世界にはリスクマネージメントという言葉は生まれない>


このあたりから「助産師の思い込みと妄想」という記事を書き始めました。


医療事故の発端はたしかに「単純あるいは基本的な確認ミス等、初歩的なケアレスミス」が多いものです。
「その薬品だと思った」「その用量だと思った」「ラベルを確認したつもりだった」など。


それは「思い込み」と言換えられます。



でも個人の責任にするのではなく「人は誰でも間違えるのであるから、システムで事故を予防する必要がある」という考え方が医療現場に浸透したことは「医療安全対策について思うとあれこれ」で書きました。


人の思い込みによる事故を未然に防ぐ為に、カラーシリンジ(色と接続口サイズを変えた注射器)を導入したりアラーム音で注意喚起したり、他のスタッフの経験に学ぶ研修を取り入れたりしています。


でもその「思い込み」も医学という共通の知識が根底にあるから、未然の事故防止対策に生かされます。


それを超えた妄想の世界には、リスクマネージメントという言葉は生まれないのだとこのマニュアルを読んで感じました。
いえ、慎重に開業されている方々には本当に申し訳ないのですけれど。




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