食べるということ 16 <中華料理と豆豉>

海外に行った時に、といっても私の数カ国ぐらいの経験でしかないのですが、ここかしこに中華料理の影響があって助かったという記憶があります。


それぞれの地域の料理にけっこうすぐに適応していた方ですが、時に、今まで食べ慣れたものも恋しくなります。
日本料理とまではいかなくても、中華料理にはどこか共通点を見いだせる。
そんな存在でした。


私が最初に赴任した国では、揚げ春巻きとビーフンがどこでも食べられたので、これには助けられました。
また、わずかな野菜と肉をトマトソースにしてパスタにかけるソマリアのバリエーションのない食事ですが、首都に行けば野菜炒めを食べることができ、中華料理の影響の恩恵に涙したのでした。


豆豉


今では日本でも数多くの中華料理の調味料が簡単に手に入るようになりましたから、豆豉も珍しくないかもしれません。


私がこの豆豉に初めて出会ったのは、東南アジアのある国の少数民族の村でした。
幹線道路から2時間以上歩いた山の中の村です。
「ヴェジタリアンをやめた訳」の「こだわらずに食べる」に書いたように、村を訪れると大事な鶏などをつぶして料理を作ってくれます。


その村では、たしかアヒルをつぶして、この豆豉で炒めたものでした。
肉の周りについている黒いつぶつぶはなんだろうと、こわごわ口に入れたところ、ほどよい塩加減の味噌のような味でした。
日本の味噌の中に残っている大豆の粒のような、でももっとコクがある味で、山道を登って塩分が欲しくなっていたので、わずかの粒も残さずに食べたのでした。


食事の後で、あの黒い粒は何か尋ねたところ、小さな中国製の缶詰を見せてくれました。
そこには私にも読める、「豆豉」の文字が書かれていました。


すごい。
こんな秘境のような所に住む少数民族の人たちにまで伝わっていくのですから、中華料理は本当に偉大だと印象に残りました。


でも、その国の中華街やふつうの食堂では一度も食べたことがなかった豆豉なのに、なぜ飛び火のようにその少数民族の村に伝播したのでしょうか。
今となっては確かめようもなく、謎のままです。




「食べるということ」まとめはこちら