水のあれこれ 283 鶴見川沿いの氾濫原と鶴見川多目的遊水地事業

ここ数年、東海道新幹線に乗ることが増えたので新横浜駅付近を通過する機会が増えました。

新幹線の車窓から、窓辺の猫が見えるくらい高架橋のすぐ近くまでおしゃれな現代のマンションが立ち並ぶのですが、どこかに水田地帯だった痕跡はないかといつも駅の北西の風景が気になっています。

 

1990年代半ばに岡山までのぞみに乗ってこのあたりを通過しましたが、残念ながら当時の風景の記憶はありません。

2000年代半ばごろからこの近くを行き来する機会があり、東急東横線大倉山駅からJR新横浜駅あたりの山肌が森林から宅地へと変化していく風景に驚いた記憶があります。

同じ頃に日産スタジアムのあたりが遊水池であることを何かの機会で知って気になっていました。

ということで、今回は20年来の宿題のような散歩でもあります。

 

長津田駅から鶴見川両岸に水田地帯が広がる風景だったのですが、少し川から離れはじめ左手に小高い山を見ながら南東へと向きが変わると、13時50分JR小机駅に到着しました。

 

北口の改札を出たところに、「地域防災センター 鶴見川流域センター」への案内図と「日産スタジアム」「日産ウォーターパーク」「国土交通省綱島出張所」などの案内標識がありました。

目の前はすぐに水田です。

西の方の小高い場所へと向かって歩くと、水田の中に嵩上げした畑があります。珍しいですね。これもまた氾濫原だった地域の名残でしょうか。

蔵と大きな納屋などがある昔からの農家の敷地の近くに、「小机城址市民の森」の案内図がありました。

小さな集落ですが、小机城の歴史を守ってきたことを感じる場所でした。

 

右手はずっと鶴見川の河川敷の平地が続いています。方角的には日産スタジアムが見えそうですが、盛り土された道路で風景が寸断されています。

 

新幹線の車窓からは見えないけれど、すぐ近くにこんな落ち着いた街と水田地帯があったことを確認できました。

 

小高い場所の麓沿いの道からふと風景が変わり、生活道路を断ち切るかのような幹線道路に出ました。

この道路が鶴見川を越えると、第三京浜、国道466号線、首都高神奈川7号線などがぐるぐると複雑に交じり合った横浜港北JCがあるのが、左岸側の「川向」という場所のようです。

堤防の上に立つと、対岸にその巨大な道路網が見えました。

こちらの水田地帯とは別世界に行く決心が必要そうな風景ですが、鶴見川の上は穏やかで、美しい水面が見えてカモや白鷺がのんびりと泳いでいました。

 

橋を渡るとすぐのところに崎陽軒の工場があり、直売所があります。誘惑に駆られながらも先を急ぎ、その渦巻く道路網の下を歩きました。

予想とは違い左岸側も平地が続いています。1kmほど歩いてIKEAの大きなショッピングモールを過ぎ、淡島神社のあたりから上り坂になりました。

 

長津田のあたりからの細長い谷津の地形から、右岸の小机城のある小さな山にぶつかった鶴見川の水がこのあたりの両岸へと広がり洪水を起こしていたのでしょうか、渦巻く水を妄想しながら坂道を上りました。

 

鶴見川「古くから洪水氾濫を繰り返す暴れ川」*

 

Wikipedia「鶴見川」の「概要」に暴れ川であったことが書かれています。

一方、鶴見川は、古くから洪水氾濫を繰り返す暴れ川として恐れられた。流域の市街地化が進んだことで、保水・浸透機能が低下し、大雨による水位の増大が激しくなり、一旦氾濫すると大きな浸水被害が生じる危険性も高まった。このため、全国に先駆けて1979年(昭和54年)から「総合治水対策」に取り組み、2005年(平成17年)4月には全国で初めて、特定都市河川および特定都市河川流域に指定された。

 

遊水池に造られた日産スタジアムまで新横浜駅からはわずか数百メートルで、氾濫原ぎりぎりのところに1960年代に新幹線を通したのですからすごい判断ですね。

 

Wikipedia鶴見川の「語源」がありました。

大きく湾曲して、ぐっと水の流れが緩やかになっている鶴見川の地形に由来する。「ツル」は川の流れが淀む状態で「トロ」(瀞)と同じ由来であり、「ミ」は「周り・巡り」を表す言葉である。

 

地図で鶴見川の流れを追うと、まさにこの小机のあたりがその名前の由来になりそうな場所に見えます。

 

そして対岸の川向の巨大な道路網とインターチェンジもまた、現代でも氾濫があれば食い止める堤防のような役割なのでしょうか。

 

 

*「鶴見川多目的遊水池事業」*

 

京浜河川事務所のサイトに鶴見川多目的遊水池事業の説明があります。

 

鶴見川多目的遊水池は、鶴見川と烏山川が合流する横浜市港北区小机・烏山地先に位置し、将来的には、河川整備基本方針に基づき、末吉橋地点に合流する基本降水量2,600m3/sのうち、鶴見川多目的遊水池をはじめ上・中流部の調整池などにより800m3/sの流量を調整する計画です。

当面の事業として戦後最大降雨の昭和33年狩野川台風規模の洪水に対する安全性を確保するため、260m3/sの洪水調整を行います。

遊水池のしくみ

鶴見川の洪水を溜める遊水池は、周囲を堤防で囲みその中を掘り下げることにより、洪水を溜める容量を確保します。

鶴見川に面した堤防のうち一部を低くし(越流堤)、洪水をここから遊水池内に流入させて一時溜め、鶴見川があふれるのを防ぎます。

そして、洪水が去った後で排水門から鶴見川に水を戻します。

 

鶴見川多目的遊水池 〜洪水から暮らしを守り、安らぎを創出〜」(国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所)という資料が公開されていて、そこには詳しく歴史や変遷が書かれていました。

 

今回は遊水池を訪ねる時間はなかったのですが、ぜひ歩いてみたいものです。

 

 

 

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