こんな専門雑誌が欲しいな!

新年を迎えましたが、平常運転のブログです。
今年もよろしくお願いいたします。


年末は「今日はちょっと黒」のタグで終わってしまったので、せめて年の初めは希望の持てるような話題でいこうと思います。


助産師向けの「専門」雑誌はなんだかなぁという感想ばかり書いているのですが、批判ばかりではなく代替案もあったほうがよいですね。
というわけで、こちらのコメントで書いたことを、もう少し具体的に考えてみようと思います。


<「周産期看護」という広い視点にたったもの>


周産期医療の実践の場は、周産期センター、総合病院、診療所、そして助産所のような分娩施設から保健センター、地域の開業など幅広いものです。


現実の山積みされている問題あるいは新たに生まれてくる問題を認識して、解決のためにそれぞれの施設や立場の違いを超えて連携できるような「全体の視点」をもった雑誌が何より欲しいものです。


大病院の話題ばかりでもなく、あるいは全分娩の1%しかない助産所分娩だけを大きく取り上げるのでもなく、バランスのとれた雑誌です。


そして周産期看護を担っているのは、助産師だけではありません


「看護管理 2012年12月号」(医学書院)の中に全国の助産師の就業先の偏りを示すものとして、以下のような説明がありました。

 2002(平成14)年医療施設静態調査による助産師数別分娩機関数(3306施設)では、助産師一人未満の病院が4.7%(71施設/1503施設)、診療所44.2%(797施設/1803施設)である。
 そのうち、一月に分娩が31件以上あるが助産師が一人未満の病院は1.2%(18施設)、診療所6.5%(117施設)である。
 さらに助産師がいない分娩施設もあることが2006(平成18)年日本産婦人科医会調査(2905施設)から明らかになっている。それによると、助産師充足率0%の施設は、病院で1.2%(愛知県、山口県群馬県福井県香川県佐賀県大分県などの10施設)、診療所では18.6%(250施設)である。
(「助産師出向システムが必要な背景」福井トシ子氏、岩澤由子氏、p.1124)

助産師出向システム」に関してはまた機会を改めたいと思います。


ここでこの統計が使われているのは、「世界中すべての女性に、助産師のケアを届けます」「全ての女性が助産ケアを受けられるように努力しよう」(国際助産師連盟、2007年5月5日)という流れで「助産師が不足している施設がいかに多いか」を示す目的があると思います。


ところが反対に見れば、助産師が全くいないか少ない分娩施設で、日本の周産期医療を多くの看護師さんたちが頑張って支えてきたことを示すものと言えるでしょう。


特に、日本の全分娩数の40%以上を占める診療所の看護師さんたちの技術と経験に私たち助産師側も学ぶことがあるはずですし、逆にハイリスクまで幅広く周産期を見渡し、あるいは文化的な面まで幅広く考える訓練をされてきた助産師に看護師さんたちも刺激を受けることもあるでしょう。


助産師が日本の全ての出産のケアをすることを目指すのは現実的とはいえないと思いますし、よいケアができる施設は全職員のチームワークがとれた施設であることが大事であって、全ての出産を助産師が介助することが絶対必要条件ではないと言えます。


周産期看護として、看護師さんや保健師さん、あるいは福祉の専門家など現実の問題に対峙している人たち全ての手で作り上げていくような雑誌があるとよいと思います。


<科学的なものの見方ができるジャーナリストと編集者を>


出産は医学的モデルだけでその方向性が決まるのではなく、社会が何を求めているのかという社会的モデルからも考える必要があります。


たとえ不合理だと思っていても社会のしきたりや風習などを尊重する姿勢が必要な場合もあることでしょう。


ただし現代医学に基づいた看護や助産を提供する側であるならば、不合理さを受け止めることはあっても、自らが不合理をうみだしそれを人に勧めるような立場に立つべきではないと思います。


前回までの記事のように「冷え」についてのいくつかの寄稿文についても、社会の中で「冷え」とはどのように受け止められているのか、それに対して助産師はどのように説明(保健指導)するのがよいのかと客観的立場であれば、「科学的な思考」と言えます。


ところが、自ら新たな概念(多くは不安)を作り出し、検証も不十分なまま「効果がある」と勧めた時、意図せずして人を騙す側になってしまいます。


臨床実践の中でいろいろな体験を通して、私たちは「もしかしたらこういうことではないか」「こうしたらよいのではないか」というたくさんの仮説を持っているといえます。


それが検証され一般化されれば、標準的なケアになっていくことでしょう。


でもつい「自分の仮説は正しい」と思い込みやすいものです。


舌小帯切除、効果の明確でない乳房マッサージや厳しい食事制限、あるいは骨盤ケアなどなど。
助産師という立場でどれだけ不合理な俗説をうみ出してきたことでしょうか。


結果、たくさんのお母さんと赤ちゃんたちを右往左往させ、経済的な負担や心身の負担だけでなく、時には健康面に被害を与えることもありました。


そして自らの理論を構築し、民間資格をつくって検証不十分なまま、あるいは第三者からの批判を受け入れないまま伝授していくシステムが多いのは、看護職の中でも助産師は特別だと思います。


是非、こうした検証不十分な仮説を話題として取り扱わないためにも、編集者やジャーナリストの中に科学的視点をきちんと持った方を入れていただきたいと思います。


まだいくつか願いはあるのですが、またの機会にしましょう。


そして今年はますますニセ科学への関心と理解が助産師仲間に広がることを祈っています。

ニセ科学とつきあうために」
菊池誠氏(大阪大学サイバーメディアセンター)
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/nisekagaku/nisekagaku_memo091102.pdf


特に「10.ニセ科学は白黒つける」「11.ニセ科学は脅かす」「12.ニセ科学は願いをかなえる」「13.個人的体験と客観的事実」はタイトル名を覚えるだけでも、世界が違って見えることでしょう。