産後ケアとは何か 1  <産褥(さんじょく)入院>

前回の記事で取りあげた産後ケアセンターについて、引き続きしばらく考えてみようと思います。


<産褥入院・・・宿泊型の産後ケア>


「産後ケア」という言葉自体、まだ明確な定義を持ったものではないと私は認識しているのですが、その中で出産後に長期に宿泊して心身の回復を図ったり、育児に慣れていくための「宿泊型」の方法として「産褥(さんじょく)入院」があります。


病院・診療所でも、「このお母さんと赤ちゃんはあと2〜3日でも長く入院していたほうが、退院後の生活がスムーズにいくのではないか」と思われた場合や、受け入れる家族の都合あわせて、臨機応変に退院を延期していた施設もありました。


ところが2004年頃からの産科施設の減少に伴って、残された施設の分娩数が増えました。
そのために以前よりは入院日数を減らすことで、全ての産婦さんの分娩を確実に受け入れられるようにする施設が出始めました。


私の勤務先も、経産婦さんの退院を一日早めることで、ベッドを確保するようにしました。


また、日本では産後に実家(夫の実家を含めて)の支援を受けながら、産後の休養をとって育児に慣れていくという方法が一般的です。
正確な統計があるのかはわからないのですが、私の勤務先でも8〜9割の方が退院後は一旦、実家で過ごされています。


以前から少数でしたが、「産後は親の手伝いは頼まずに夫と二人で乗り切ります」という方はいらっしゃいました。あくまでも記憶と印象ですが、どちらかというと実家の手伝いは頼めるけれども、頼まずに二人で頑張ってみたいという方達でした。


ところがこちらの記事に書いたようにここ20年ほどで30代初産の方が増えるに従って、産後の手伝いを頼めないという方達が増えたと思います。


30代あるいは40代初産であれば、親も60代から70代です。
産婦さんの実母がすでに亡くなっていらっしゃるとか、病気や高齢の親には負担をかけられないなどの理由の方が増えました。


こういう方には、退院後に自治体の産褥支援ヘルパー制度を活用したり、場合によっては産褥入院をしている施設の活用という手段もあることを説明しています。


また30代から40代の初産婦さんというのは、もちろん個人差もありますが、やはり20代の出産に比べると体力的にも大変そうに見えることもあります。
産後の回復と赤ちゃんの世話という現実が、予想を越えていたり、その中で「うまくこなせない自分」に自信をなくしそうになる方もいらっしゃいます。


自分自身を振り返っても、女性の20代と30代では自尊感情が大きく異なると思います。


30代になるとある程度のことを自分で判断し自分で解決する能力を得られるのですが、出産・育児はそれまでの自信をいっきに打ち砕き、自分を立て直すのに時間がかかってしまう場合があるのかもしれません。


あと数日でいいからうちのクリニックでそのまま過ごしてもらえれば、退院後の赤ちゃんとの生活がスムーズにいくのではないかと思うこともあります。
でも、産褥入院の希望を受け入れると、クリニックの分娩受け入れが立ち行かなくなります。
たとえ退院を延期して過ごしてもらえたとしても、1泊3万ぐらいを支払える方はなかなかいらっしゃらないことでしょう。


不安そうな表情のお母さんに、「いつでもどんなことでもいいから、遠慮なく電話くださいね。無理しないでね」と退院時は声をかけています。


「宿泊型の産後ケア」として、産褥入院が必要なことも確かにあると思います。
続きます。




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