残された産科施設で分娩を受け入れるためには早期に退院をしてもらう方法を取り入れるところが増え、それにともなって「産褥入院」という言葉が聞かれ始めたのは2000年代終わりの頃だったと記憶しています。
「助産雑誌」2010年4月号(医学書院)でも、「特集 産後早期退院と地域における母子の支援」という特集記事がありました。
(ついでに、おむつなし育児の記事もこの号でした)
分娩を扱う病院が減少し、ベッド不足などの理由から産後早期退院の可能性が検討されるようになりました。しかし、安心・安全な早期退院を可能にするには、いくつかの条件が必要です。特集では、早期退院の可能性や必要な条件について考えます。同時に、退院後の母子を支える地域での先行事例として、実績を重ねつつある産後ケアセンターや家庭訪問の取り組みに学びます。
この号は購入していないのですが、産後ケアセンターの新設や既存の助産所を産褥入院施設として活用する、あるいは開業助産師による訪問事業などの記事だったと思います。
実際には産褥入院という宿泊型の産後ケアが必要な方は少数で、どちらかといえば長期間にわたる在宅への多様な育児・産後支援の必要性の方をあわせて考えていかなければいけないことと思います、
その点についてはまた、後日考えてみたいと思いますが。
それでも、当時、私の勤務先でも入院日数短縮をしていましたから、問題点は分娩施設の減少による早期退院の増加で、その解決策として産後のケア施設の必要性という方向なのだと思っていました。
・・・つい最近までは。
<「早期退院促進」>
産後ケアセンターについていろいろ調べていくと、キーワードは「早期退院促進」でした。
分娩施設側の入院短縮をせざるを得ない状況が問題なのではなく、むしろもっと早く退院させて、その分、宿泊型の産後ケアセンターを活用する。
そういう流れがあるようです。
2008(平成20)年12月に行われた「第4回周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」での、「参考人 岡本喜代子資料(日本助産師会)」がネット上で公開されています。
(ttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/dl/s1208-8l.pdf<hを抜いてあります>がアドレスなのですが、現在直接:リンクできないので上記で検索してみてください。)
その2ページ目に、次のようなタイトルがあります。
3.「産科医療を必要としている妊産婦に、医療の提供ができるための方略について」
ー出産後の早期退院ができるようなシステム作りをー
そして「欧米では、出産後6時間から24時間で退院している」が、「日本の多くの病院等施設における出産では5-6日である」としています。
そして「横浜市の市民からの提案より(2008年6月)(インターネットより索引)」として、次のような提案と横浜市側からの回答が書かれています。
医療機関での入院期間を2泊3日程度にして、出産できる施設減少の歯止めに中間施設を設置してはいかがでしょうか。
<回答>早期退院への理解を広めていく取り組みへの支援や、産後ケア事業予定者等への働きかけを行うなど、早期退院の実施に向けた環境づくりを進めているところです。
2008年当時、入院期間短縮をせざるを得ない状況を「問題」と受け止めていた人たちばかりではなかったようです。
むしろ、積極的に早期に退院させようとしている動きがすでにあったわけです。
そして「助産師の活用」に結びつける布石として。
<横浜市の「早期産後ケア推進要綱」>
2008(平成20)年4月に制定された「横浜市早期産後ケア推進要綱」がネット上で公開されています。
「産後ケア」の定義も不明確な中、2008年のこの要綱では「早期産後ケア」という言葉が使われています。
(目的)
第1条 この要綱は、早期産後ケアを推進することにより、医療機関における産科病床を効率的に回転させ、市内医療機関の出産取扱い件数の増加につなげることを目的とする。
そしてそれぞれの用語が以下のように定義されています。
早期退院 産後3日程度で市内の医療機関を退院することをいう。
産後ケア 産後3日以降に、医療機関において、通常、実施が予定されるじょく婦及び新生児に対する保健医療的ケアをいう。
早期産後ケア施設
医療機関を早期退院後、じょく婦及び新生児に対する保健医療的ケアをいう。
さて、第3条には「この要綱における補助事業者」が書かれています。
(1) 早期産後ケア施設の運営
関連法令等を遵守した産後ケア施設を市内で運営する事業者とする。また、既存の助産所が出産を取り扱わず、産後ケア施設となる場合も対象とする。
<今日はちょっと黒>
久しぶりのこの「今日はちょっと黒」のタグです。
「産科医不足が理由で早期退院が増加し、それによる問題が増えている」という社会の受け止め方を広げる一方で、早期退院を推進し、その受け皿としての助産所や助産師の訪問事業に補助金が出される。
これはお手盛り、あるいは我田引水と呼ぶのではないでしょうか、世の中では。
これだから助産師の世界はなんだかなぁ、と思ってしまうのです。