行間を読む 6  <必要な答えは液状乳児用ミルクではないか>

医療用物品というのは、安全性、感染予防、そして使いやすさという点でどんどんとよい製品に改良されています。


その中で、30年前に比べてもほとんど変わっていないのが、粉ミルクと哺乳ビン、そして哺乳ビンの消毒方法です。
電子レンジで消毒できるようになったことが、少し前進したぐらいでしょうか。


相変わらずポットにお湯を準備し、粉末あるいはキューブ状のミルクをお湯で溶いてそのつど調乳しなければなりません。


使い終わった哺乳ビンや乳首は洗剤と十分な水で洗浄し、薬液での消毒をする必要があります。


なぜ、乳児用ミルクと調乳や哺乳に必要な物品は旧態依然のままなのでしょうか?


<震災時の授乳の想定外のこと>


前回の記事で、「母親が亡くなったり、けがなどで人工乳が必要なことがある」というまさに想定外の経験が、「ペリネイタルケア」2013年3月号(メディカ出版)に書かれていることをを紹介しました。


それ以外に、「沿岸沿いにあった粉ミルク会社の倉庫も流されてしまい、粉ミルクも入手できなくなった」という点も、想定外だったといえるでしょう。


また、災害の規模によって短期間でライフラインの復旧の目処がつく場合には、そのまま母児を入院させておくほうが安全・安心と思われますが、東日本大震災のような広域で大規模、しかも地震津波原発事故といった災害が複合した状況では、早期退院をさせる判断になると思います。


宮城県のスズキ病院でも、分娩後1〜2日後に退院してもらうようにしたようです。
また帝王切開を受け入れていた石巻赤十字病院では、帝王切開術後4日での退院としていたようで、「ライフラインが復旧していない地域に帰さざるを得ない」と上記「ペリネイタルケア」の報告の中で書かれていました。


まだ、新生児の生理的黄疸や生理的体重減少、母乳栄養の確立の目処もまったく立たない時点での退院です。
これも想定外と言えるかもしれません。


<調乳に関する実際の経験>



ただし、電気・ガス・水道などのライフラインが使えなくなることは想定できることです。


被災地の病院での調乳の実際はどうだったのでしょうか?
「ペリネイタルケア」2013年3月号では5施設の報告がありますが、スズキ病院以外は周産期センターレベルの施設のためか、ライフラインの復旧も震災翌日と早く、特に水の供給が長期間止まることはなかったようです。


そのためか調乳に関して書かれている部分は少なく2ヶ所しかなかったのですが、抜き出してみます。

・粉ミルクの備蓄と授乳方法の改善
ポットのお湯は常に満杯にしておく、粉ミルクはキューブ型のものが清潔を保ちやすく災害用に適している。紙コップやスプーンでの授乳方法の知識を持つことも必要である。

これはスズキ病院の報告ですが、震災後4日目に自衛隊の給水が始まるまでは自施設内の貯水で対応していたようです。

ミルクの調乳には水道水を煮沸して使用していました。

これは宮城県立こども病院産科病棟の報告で、幸いに震災後断水はなかったようです。


<災害時こそWHO/FAOのガイドラインを>


わずか数行の報告ですが、そこから行間を読み教訓を得るとしたら、私には液状乳児用ミルクこそ災害時には必要ということだと思います。


こちらの記事で紹介した、2007年に出されたWHO/FAOの「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」には以下のように書かれています。

可能な限り、リスクの最も高い乳児には商業的に殺菌されたすぐに使える液状乳児ミルクが推奨される
滅菌した液状乳児用ミルクには病原菌が存在せず、感染のリスクもない。

なぜライフラインが不安定な災害時にお湯を準備し、十分に清潔にできない人の手で調乳をする方法を、あの未曾有の震災を体験してもなお変えようとする動きがないのはなぜでしょうか?


お湯を準備しなくても、開けるだけで飲ませられるミルクがあるというのに。
飲み終わったら消毒も必要ないのに。
使い捨ての哺乳ビンと乳首だって、外国では日常的に使われているのに。
そしてそのミルクが余っても、お母さんだけでなく全ての人が自分のための水分・栄養補給として飲めるのに。


ライフラインが復旧していない地域に、早期退院で戻っていくお母さんと赤ちゃんに何パックか持たせてあげることができたら、どんなにお母さんたちの負担が減ることでしょうか。


こんなに便利なものを認めないのは何故なのでしょうか。


「行間を読む」のタイトルですが、「簡単なことを難しくしているのではないか」もあわせてつけたいところです。





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