助産師の中に広がる代替療法や変な雰囲気について書きつつも、一緒に働いて来たほとんどの同僚はごくごく真っ当に働いていると思っています。
むしろ、あれだけ話題になったホメオパシーと助産師の件や、助産師向けの書籍で話題になったこともほとんど関心がないほどです。
拍子抜けするほど何かについてこだわっているわけでもないけれど、誰かからなんとなく聞いた話になびきやすい印象です。
それが、○○ベルトや○○式乳房管理が根強く残っている理由なのだろうと思います。
あるいは最近では、ラッチオン・ポジショニング万能のように。
「キャベツで冷やすことを知っているなんてすごい」からキャベツ原理主義になっていくような、そんな雰囲気がそこかしこにあります。
こういう情報や話題が鵺(ぬえ)のように広がっていくのは、本当に不思議です。
そのひとつのきっかけに、研修会があるのかもしれません。
<東京都福祉保健局による平成29年度助産師教育指導講習会>
さて、1ヶ月ほど前に勤務先に研修会のお知らせが届いていました。
「平成29年度助産師教育指導講習会」で、以下のように説明があります。
東京都では、都内に居住している助産師の方や、都内の医療機関等で業務に従事する助産師の方の知識と技術の向上を目的として、公益社団法人東京都助産師会による講習会を開催しています。
たしか、毎年この季節になるとお知らせが来ていたと思いますが、興味のあるような内容はなかったのであまり印象に残りませんでした。
今年は、無痛分娩や助産ケアの事故やトラブル、産科医療補償制度についてなどリスクマネージメントをテーマにした内容があったので目についたのでした。
ところが、驚いたことに講習の中に「クラニオセイクラルセラピー」がありました。
私がこの名前を知ったのは10年ほど前、助産所における分娩以外の業務を定点観測していたときに、頭蓋仙骨療法という名前で知りました。
Wikipediaのクラニオセイクラル・セラピーの「歴史」を引用します。
クラニオセイクラル・セラピーの歴史は、1900年代初頭のDr.サザランド(1873-1964)のある発見から始まる。当時オステオパシーを学んでいたサザランドは、解体された頭蓋骨の縫合を観察して、側頭骨と魚のえらとの類似性に着目し、頭蓋骨と呼吸が関係しているのではないかという仮説を立てた。その後自分自身や家族への実験や調査を繰り返し、癒合して固まっている頭蓋骨には呼吸に似た僅かな動きがあること、頭蓋骨の呼吸の様な動きは体液と関連があることを仮説として打ち立て、それに基づいて臨床を重ねた。
私には理解を越えた内容ですが、現在この「施術」をしている整骨院のホームページを見ると、「頭蓋骨の動きを調整することで、(中略)脳脊髄液の循環を良くして、生命力(又は生命の息吹:ブレスオブライフともいいます)を発動させる治療法」と書かれていました。
そして「適応症」は以下のように書かれています。
新生児、乳児
・神経系の過剰、過度に泣く、筋緊張低下、呼吸障害、難産による頭蓋骨の変形、過度の嘔吐や腸の機能障害など。
大人なら「マッサージされて気持ちよかった」という思いこみで済みますが、症状を訴えられない子どもたちがまた、こうして代替療法に取り込まれて適切な治療の機会を逸したり、反対に、不要なあるいは不適切な大人の信念によって子どもらしい時間を失わせれることになります。
東京都福祉保健局と東京都助産師会の皆さん、本当にこの研修内容で大丈夫ですか?
「助産ケアと事故・トラブル」という講習内容もあるのに、研修会の内容が矛盾しているのではないでしょうか。
助産師の世界はあのホメオパシーの失敗に学んでいないのだ、妄想の世界にはリスクマネージメントという言葉は生まれないのだと落胆しています。