産後のトラブルを考える 21 <家族崩壊を防ぐための現実的な解決策>

前回までは、「気持ち」の部分からケアや産後のトラブルを抱えた家族について考えました。


妊娠・出産を機に予想もしなかったトラブルやケアの長期化を抱えることによる家族の崩壊を防ぐには心理的なサポートも必要ですが、気持ちの問題は人さまざまですから、むしろ経済的な支援という現実的な対応が有効なのではないかと思います。


学問的な「家族の失敗」という表現には不勉強なので、家族の崩壊という言葉で考えてみようと思いますが、それはこちらの記事で紹介したケアの語源にある「重荷としてのケア」と「気遣いとしてのケア」のバランスの問題から考えるとわかりやすいかもしれないと思いました。


<出産時の危機に直面した男性の行動>


産後のお母さんや赤ちゃんに予期せぬケアが必要な状況に直面したパートナーの男性の気持ちにはどのような変化があるのでしょうか?


そういう研究を目にしたことがないので、私自身がそのような状況の男性を実際に見ての推測にすぎないのですが。


たとえば出産でお母さんや赤ちゃんの生命の危機に直面したときのパートナーの男性は、ほとんどの方がこちらが心配になるほど、何かに突き動かされたかのように家族のために行動をされるように見えます。


産婦さんの異常出血で生命に危険が及んでいるとか、赤ちゃんの状態がよくなくて周産期センターに搬送しなければならないといった医学的な説明を理解するだけでも大変なことだと思いますが、ほとんどのお父さんが不安や悲嘆は心の中にしまって驚くほど冷静に振る舞い、そして産婦さんを支えようとされます。


搬送後も通常の仕事をこなし睡眠不足と緊張で目が血走りながらも、赤ちゃんとお母さんが入院しているそれぞれの病院を往復し、治療に必要な情報を集めたり退院に向けての準備をされています。


まさに「気遣いとしてのケア」に支えられた行動といえるのではないでしょうか。


こうした男性の姿を見るたびに、人は極限のような状態に置かれると何かに突き動かされたように立派な行動をするものなのかと胸がつまりそうになります。


<重荷としてのケア>


ところが一旦、そのバランスが崩れれば「ケアの受け手と与え手が非対称な関係」に容易に陥ることでしょう。


「重荷としてのケア」のひとつは心理的なものかもしれません。
自分の気持ちをどこに伝えるわけでもなく、かつパートナーの女性の不安をも受け止めていることが多いのではないかと思います。
そして三浦綾子氏と光世氏のように、その「重荷」を生かし合う関係も不可能ではないのだと思いますが、その感情の部分はかなり「私的な領域」といえます。


もうひとつの「重荷としてのケア」は経済的な負担で、こちらは社会からのサポートが可能ではないでしょうか?


出産時の生命の危機に直結するような治療費自体は高額医療費や新生児医療費無料制度などで負担が少なくなるようになっていますが、家族が入院あるいは通院が必要になると医療費以外のさまざまな出費の多さに驚くことが多いと思います。


入院中の身の回りの物を購入したり面会や通院の交通費など、あっという間に何万円となくなります。


さとえさんやあおばさんのように産後の排泄トラブルが起きた場合の方々は、あちこちの病院を探して受診する費用に加えて、成人用の紙おむつなどの衛生用品代もかなりかかることでしょう。
さとえさんのコメントでも次のように書かれていました。

泌尿器科と肛門科をいくつも受診し、ようやくきちんと検査診察していただける病院にかかる事ができるまでに数十万かかりました。貯金を崩すしかありませんでした。


<ケアは労働である>



それまで仕事を持っていた女性でも、産後の排泄トラブルは経済的な基盤を失わせてパートナーに経済的に依存することになります。


さとえさんも上記のコメントで以下のように気持ちを書かれています。

大好きだった食品を扱う仕事に復帰したかったのですが、失禁があるとさすがに無理です。あきらめるしかありませんでした。仕事を辞め、医療費もあり、経済的にも苦しいです。でも、そのうち働かなければならないと思います。


これを読んで思い出すのが、2004年4月から始まった介護保険制度です。


介護保険が成立したということは、家事は賃金に換算できる労働であるということが公的に認められたということではないかと思っています。


であれば、「私的な領域」のままであれば不払い労働になっている赤ちゃんの世話も、十分に賃金労働として考えられるはずです。


その部分への受け止め方が代われば、産後の排泄トラブルを抱えた方々が一見パートナーの収入に依存しているようでも、実際には家事そして子どもをケアする「労働」をしているということだと考えられて、パートナーの男性との非対称的な関係に陥ることも防げるかもしれません。



このあたりを整理して考えていくと、出産で予期せぬ障害や疾病を負った女性への「経済的援助」とはどのようなものが考えられるか少し見えてくるような気がします。





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