帝王切開について考える 21 <聞かれなくなった「創部の安静」という表現>

数年前に母が心臓の手術を受けることになり、久しぶりに循環器系の手術看護の本を購入しました。


30年前の外科看護とはだいぶ様相が変わっていることを感じたのが、「麻酔覚醒後からリハビリが始まる」ということでした。
母の場合にも、術中合併症がなければICU(集中治療室)で翌朝からは離床に向けてのリハビリが理学療法士さんによって行われ、術後1〜2日目には一般病棟へ移るというスケジュールでした。


私の世代だと、「開胸術」「心臓手術」といえば、数日間ぐらいの絶対安静で、術部への負担をかけないことが優先されていたと記憶しています。


30年前の手術後の看護では「創部の安静」「身体の安静」は重要項目でした。
たとえば現在日帰り手術ができるようになった白内障の手術も、当時は、一週間は頭を砂嚢で固定した絶対安静でした。


「手術療法とは人生の一大事である」で紹介した看護の教科書でも、術後の看護の中から「創部の安静」「安静」という言葉が見つけられませんでした。


「早期離床・ADL拡大促進ケア」として、「麻酔覚醒後からベッド上での下肢の運動や体位変換、早期離床とADLの拡大は、多くの術後合併症の予防に効果的である」(「周手術期看護論 第3版」、ヌーヴェルヒロカワ、2015年、p.139)と書かれています。


これは30年前と比較して離床の時期はより早くはなりましたが、「ベッド上での下肢の運動や体位変換」は基本的には同じです。


残念ながらこの教科書でも、手術直後の創部をどのように保護する必要があるかという視点での記述がみつかりませんでした。


帝王切開の場合の「創部の安静」はどうなったのだろうか>


こちらの記事で紹介した私が助産師学生の時に使用していた教科書では、創部の安静についても書かれていませんでした。


卒後勤務してきた数カ所の病院や診療所では、帝王切開に限らず、子宮全摘術などの産婦人科系の手術では、「術後2時間は仰臥位のままで創部の安静を保つ」ことが暗黙の了解のように言われていました。
もちろん患者さんはまだ術後2時間ぐらいだと麻酔によって足を動かすこともできないので、自分で体を動かすことは無理ですから、これはどちらかというとスタッフに向けた注意ではないかと思います。


患者さんをベッドに移動したりする時には、創部に負担がかからないように丁寧に行うことが大事であるという意味です。
また体位変換もだいたいは術後2時間ぐらいから始めている施設が多いのではないでしょうか。


帝王切開では切開した子宮は大まかに縫合してあるだけで、あとは子宮収縮によって術創が癒合されていきますし、筋層、皮膚表層も裁縫と同じで縫い目にはすき間があります。


これでよく出血もおこさないものだと、いつも不思議な気持ちで創部を見ています。


ところが、こちらの記事に書いたように、縫合不全による腹腔内出血を経験してからは、縫合によって出血しない人体のしくみに不思議を越えて畏敬の念があります。


その腹腔内出血を起こした方の原因は結局はよくわからなかったのですが、手術から病室のベッドへの移動の際に術層部へ振動を与えず、患者さんの体に負担がないように運べる器具を購入することで再発防止策としました。



1990年代から総合病院では、病室の術後ベッドをそのまま手術室に入れて、患者さんをベッドへ移す回数を1回だけにするところが増えました。これも、「創部の安静」が目的でした。


そしておおむね2時間すると、少しずつ体の向きを変えたり足の運動を入れたりして早期離床に向けて準備することが一般的です。


ところが、どこを探しても「術後2時間の創部の安静の必要性」について根拠らしい記述を私は見つけだせずにいます。


どなたかご存知の方があれば是非、教えてください。