帝王切開について考える 22 <術直後に何を優先するか>

帝王切開や手術を経験された方でないとイメージしにくい話が続きますが、どうぞおつきあいください。


私自身、こちらの記事に書いたように、経験10年目ぐらいで帝王切開術直後の弛緩出血、20年目ぐらいで縫合不全による腹腔内出血を経験してからは、「お産は怖い」と同じく「帝王切開は怖い」という気持ちが強くなっています。


これはもちろん「帝王切開が危険」という意味ではなく、「観察に気を抜いていはいけない」「『大丈夫』というバイアスを持っていはいけない」という意味です。


帝王切開を終えて病室に戻ってくると、術後2時間までは30分ごとに2回、そのあと1時間後に1回は最低でも全身状態の観察をします。
体温、心拍数、血圧、SpO2、尿量、子宮収縮・悪露、創部の出血の有無などです。
これだけでも数分ぐらいはかかり、またすぐに次の観察の時間が来ます。


心配して待っていたご家族に病室に入って面会してもらっていても、じきに「申し訳ないですけれど全身の観察をするので外で待っていてくださいね」と退室してもらいます。
せっかく赤ちゃんを抱っこしていても、また一旦預かって、お母さんの全身状態を観察しています。


「お母さんも元気そうな様子だし、苦痛の訴えもないから大丈夫だろう」と観察の気を抜くことで弛緩出血や縫合不全を見逃す可能性があること、そのリスクの方が「母子早期接触」とか「家族の絆」などよりも私にとってはより現実的な問題に感じています。


状態が安定していれば、また次の観察の時間までは赤ちゃんや御家族と一緒にいてもらうこともありますが、その赤ちゃんの誕生という家族の喜びに共感しつつ、心情には巻き込まれないようにして私のアンテナはお母さんの全身状態へと向いています。


もし「せっかく赤ちゃんがお母さんの腕の中にいるのだから、引き離したらかわいそうかな」「せっかく御家族との時間なのだからもう少しこのままにしておこうかな」とためらうことが、弛緩出血などの異常の発見を遅らせることになる。


ですから術後2時間ぐらいまでは、まずはお母さんの全身状態の安定が私には優先事項として認識されています。


そしてその後は、創部に負担をかけないように少しずつ体を動かすことをお手伝いしながら、翌朝初めて歩行するまでは、お母さんの休息を妨げることができるだけ少なくなるようにする、そのあたりが看護のポイントではないかと思っています。


え、赤ちゃんですか?
出生直後から2〜3日の赤ちゃんは「泣いたらおっぱい」だけではないことは、こちらの記事に書いた通りです。激しく啼いている時にお母さんのところへすぐに連れていくのは、スタッフの観察不足だと思っています。


「赤ちゃんは生まれてからすぐにおなかがすいて飲むというよりも、2〜3日はうんちとの闘いの時期があるから、吸いたそうな時に声をかけますね。だからお母さんもまずはゆっくり休んでいいですよ」


この一言だけでも、帝王切開のお母さんたちが無理をして気力を振り絞ってまで赤ちゃんの世話を頑張らなければという気持ちを、少しやわらげてくれるのではないかと思います。