赤ちゃんに優しいとは 2 <「家族中心のケア」って何だろう?>

今回からしばらくは、「新生児ベーシックケア」(横尾京子氏、医学書院、2011年)を参考にしてみたいと思います。


私が1980年代終わりに助産学生だった頃、都内にもまだNICUは数えるほどしかなく、そのうちのひとつの産院でNICU実習をさせてもらった記憶があります。
1500gぐらいの赤ちゃんを救命できることがすごい時代でしたし、胎内の水中から胎外で自発呼吸を行う時の障害に対して人工サーファクタントの治療が始まった頃でした。


1980年代当時がどれくらい「NICUのあけぼのの時代」だったのか、何か資料はないか探してみたら、「NICU退院支援体制検討会・資料」の2ページ目に「周産期医療の変遷と課題」にまとまっていました。


その表で言えば、ちょうど「第三期(昭和49年〜58年)」と「第四期(昭和59年〜平成5年)」のあたりでしょうか。

第三期(S49年〜58年)


新生児集中治療の確立
 機械的人工換気の導入
 呼吸モニターの普及
 新生児搬送・分娩立会い
 地域新新生児搬送システム(私的)の整備 


その前の「第二期(S39年〜48年)では、「胎児心拍監視装置の普及」「異常新生児の早期発見・早期治療」とありますが、「胎児はブラックボックス」で分娩監視装置でようやく異常の早期発見の手段が見え始めた時代だったことがわかります。


その後、人工呼吸器や呼吸モニターの開発あるいは保育器の普及などを背景にして、一気に新生児集中治療の幕開けの時代になった印象です。


当時は看護関係の参考書は現在とは比べ物にならないほど少ない中で、このNICUでの看護がまとめられた本がありました。


その著者が横尾京子氏で、あの複雑で繊細なNICUのケアの実践がわかりやすくまとめられていた本として、そのお名前とともに印象に残っています。


冒頭で紹介した本は2011年に初版が出ていますが、定期的に大型書店の医学・看護学コーナーを見て回っているのでその本が出た時にもすぐに手に取ってみました。
なかなか「新生児ケア」がまとまった本がいまだにないので、「新生児ベーシックケア」というタイトルに大いに期待して手に取ったのですが、ちょっと落胆したのでした。


というのも、私が最も知りたかった新生児のさまざまな変化と排泄の関係について、答えがなかったのでした。
たとえば、「排便」(p.93)ではわずか12行で従来通りの内容しかありませんでした。

(前略)
 便の性状は、胎便、移行便、黄色便と変化する。胎便は、胎児期に消化管に集積した胎児由来の毛髪、胎脂、脱落した消化管粘膜、消化管粘液、ビリルビン色素などからなり、粘稠性が高く、黒色か扱く黒緑色である。在胎週数が進むにつれ、大腸に移行する。移行便は(粘稠性低下、褐色か緑色)は胎便と新生児便から成り、胎便排泄後、1〜2日の間に排泄される。それ以降は黄色便である。母乳を摂取している新生児の便は、人工乳の新生児の場合よりも、水様で色も濃く、回数は5〜7日ぐらいである。


私が知りたかったことは、こうした腸蠕動の始まりや消化・吸収の始まりが出生直後の新生児の変化とどう関係しているのかということでした。
新生児が啼いたり、いろいろな表情をするのも、この排泄の過程と連動しているはずです。
それが生活者としての新生児であり、その生活を整えるのが看護(ケア)だからです。


あ〜あ、まだ新生児はやはり観察されていないのだなあと、その後は書店でこの本を見かけても手にとることはありませんでした。


最近になって、ふとタイトルが気になってもう一度手に取りました。
サブタイトルに「家族中心のケア理念をもとに」とあり、帯には「新生児ケアの醍醐味は・・・『母親や家族と共に、新生児の魅力を発見するよろこび』」とあります。


購入して一通り読んでみましたが、この本への批判というよりも周産期看護の方向性がなんだかずれてしまっているのではないかという不安が残りました。


ということで、しばらくこの本を参考に考えてみようと思います。





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