赤ちゃんに優しいとは 7 <どこまで検証されているかを整理する>

前回の記事で、自宅分娩を介助した助産師の臍の対応方法が書かれた部分を紹介しました。
その部分を再掲します。


臍帯の処置は、清潔保持と乾燥のみで、それ以外は何も行わなかった。日齢7の7時42分に脱落した。助産師の助言で、紫雲膏(漢方系の軟膏)を1回塗布した。これは赤紫色をしているが、この赤紫色は紫根(シコン)という植物の根の色で、炎症を和らげ、皮膚の再生を助ける作用がある。華岡青洲が開発したのだそうである。塗布後は、衣類が汚れないようにおむつ(布)で覆った。


以前勤務していた病院で、産婦さんの痔に紫雲膏を処方する先生がいらっしゃって、初めてこの軟膏を知りました。
Wikipediaには「抗炎症、肉芽形成促進作用、抗菌作用、抗腫瘍作用などが報告されているが、薬理作用の詳細なメカニズムについての研究は十分おこなわれていない」とあります。


ただ、新生児に使うことは聞いたことがありません。


冒頭で紹介した部分を読んで、2つの疑問が残りました。


ひとつは、新生児に使っても大丈夫であるという検証はされたのかということ。
もうひとつは、臍帯脱落までは「清潔保持と乾燥のみで、それ以外は何も行わなかった」のに、臍帯脱落したその直後だけ、なぜ紫雲膏が必要と考えられたのか。
その2点です。


臍帯の消毒や処置に関しては、「臍帯消毒の記事」に書いたように、まだまだ臨床では考え方や方法に統一されたものがないので、施設によっても新旧いろいろな考え方が混在しているのが現状ではないかと思います。


この「新生児ベーシックケア」(横尾京子氏、医学書院、2011年)ではコクランレビューで「消毒薬や抗菌剤を使用しても清潔保持と乾燥以上の効果は期待できない」とされていることを紹介して、以下のようにまとめられています。

したがって臍処置においては、臍帯脱落が臍帯自体のミイラ化と臍輪部における好中球の組織浸潤(好中球による貪食と殺菌作用が働く)という生理的変化であることから、清潔保持と乾燥に十分留意し、母乳育児の早期開始によって新生児に抗体を与えることが不可欠である。

あ〜あ、おしいなあ。
前半部分は納得できたのに、なぜここで「母乳育児の早期開始によって新生児に抗体を与えることが不可欠」という文章になってしまうのでしょうね。
ミルクだけで育っている子は、臍帯脱落の過程になにか決定的に不利な状況があるのでしょうか?



いずれにしても、現在は「清潔保持と自然乾燥」で十分ではないかという方向性が示されているのですから、同じ書籍の中で紫雲膏を紹介する必要はなく、むしろ「それを使った場合と使わない場合の効果の違いが未検証」「新生児への安全が確立されているわけではない」と注意喚起をするほうが良かったのではないかと思います。


華岡青洲が開発したものでも、効果が実証されなければ医薬品からはずされるのが現代の医療ですしね。


<これも問題ではないか?>


もうひとつこの本の中に「へその緒」というコラムがあり、「脱落した臍帯に対する3人の母親の体験や想いを紹介」しています。
その中に、また驚く箇所がありました。

Aさんの紹介で助産院の院長から話をうかがった。3年ぐらい前から実施しているそうであるが、そのきっかけにも驚かされた。それまでは、土鍋に臍帯の付いた胎盤、竹炭の粉(体に良い)、よもぎ(におい消し)を入れ、とろ火で24時間、黒焼きにし、粉にして、"熱さまし”としてあげていた。(量は30×20cmのビニール袋に1/3ぐらい)。しかしにおいが強いのでやめ、その代わりに胎盤の付け根から切断部分までの臍帯を乾燥させ、それをあげることにしたのだそうである。長ければ動脈や静脈も見て取れ、母子がつながっていたことが実感できるだろうという配慮である。


へその緒を土鍋で乾燥させて「○○に効く」と渡している助産師がいることは、以前から助産師に広がる代替療法定点観測していたので知っていました。


ブログにそれを「良いことをしている」というニュアンスで書いている人がいることに、同じ医療従事者としてとても驚きましたが、ごくごく限られた人たちだけに支持されてそのうち消滅するだろうと思っていました。


誰かがそっと、「そんな無謀なこと、馬鹿なことはおやめなさい」と注意してあげればやめるだろうというような話ですからね。


これを読むと実際にやめたようですが、「においが強いから」という理由に、何が問題なのかわかっていないのかもしれない不安を感じます。


そしてさらに、こうして周産期看護の本に紹介されるようになったことにもっと驚きです。


「効果があるということはどういうことか」「どこまで検証されているか」
そういう基本的なことがおさえられていない、周産期看護の行方に不安を感じる本でした。


思い込みによっていろいろな方法が赤ちゃんや子ども達に試されていることに、むしろ私たちは警鐘をならすべき立場だと思うのですが。




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