記憶についてのあれこれ 144 マングローブ

海水と真水が混じり合う場所が「汽水」であるということは、中学校や高校で学んだのでしょうか。

なんとなく知っていたこの言葉を目の前で見るようになったのが、1980年代半ばに東南アジアで暮らした時に初めてみたマングローブでした。

 

海の中に森があり木が育っている情景は、それまで汽水域とは無縁だった私にとってはなんとも不安定な風景に見えました。

塩分がある水の中で、植物が育っているのですから。

80年代半ばはまだ東南アジアへの観光はメジャーではなかったので、マングローブは名前は知っていても情報もほとんどありませんでした。

 

時々、漁師さんの小船に乗せてもらってマングローブの森を抜けて外洋へとでる時に、気根がぐっと海の中に張り出している姿に圧倒されていました。

たしかこの時に、マングローブ周辺は魚が産卵で集まる大事な場所だと漁師さんから聞いたのだと思います。

 

海でも川でもない場所があり、塩分のある水中から植物が育ち、そこは海や川から魚が集まってくることが印象に残りました。

 

マングローブとエビの養殖場

 

90年代に入ると、社会問題としてマングローブのことが気になり始めました。

80年代の後半ごろから日本ではコピー機が広がり、どこでも簡単にコピーできるようになりました。

そのインクの原料になるのがマングローブを炭にしたものであり、日本などでインクの使用量が増えるにしたがって、熱帯のマングローブが伐採されて消失していくことが問題になりました。

 

そしてもうひとつ、日本のエビの消費量が急激に増えたことで、エビの養殖場にするためにマングローブの森が伐採されていきました。

 

90年代に私が行き来していた地域の沿岸にも、エビの養殖場が増えました。

「東京ドーム1個分」のような大型の養殖場から小規模のものまでさまざまでしたが、海岸沿いの道を走ると、マングローブの森がなくなり水をたたえた養殖場へと変わっていきました。

エビを育てるために養殖場では海水と大量の地下水を混ぜる必要があり、周辺地域の水不足も起きているという話を聞きました。

 

汽水域のマングローブの周辺で育つエビを大量生産するために、マングローブを伐採し、人工の汽水が必要になる。

 

ちょうどそのころ広がりだした環境問題という、新たな社会問題でした。

 

 

 

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