行間を読む 192 雑踏警備の歴史

昨年、雑踏警備という言葉と、その国家資格ができたことを初めて知りました。

きっかけはおそらく2001年(平成13)の明石市の事故だろうと思っていました。

 

今年の渋谷駅周辺のハロウィンに集まらないでという呼びかけから、「雑踏」とはどんな定義があるのだろう、規模とか混雑度に数字で表現されたものがあるのだろうかと気になって検索したところ、兵庫県警察が平成14年に出した「雑踏警備の手引き」が公開されていて、その「第2章 基本的事項」に定義のような内容がありました。

 

(1)雑踏の意義

 慰安、娯楽等共通の目的を持つ不特定多数の人が、一定の場所に集合し、あるいは集合した人々が、他の場所へ移動することによって生ずる人と人の混雑状態をいう。

 人が多数集まる場所としては、祭礼、花火大会、興行、競技、催物、四季の季節的行楽、スーパーマーケットの大売り出し、パチンコ店の新規開店等多彩である。

 前記以外にも、朝夕のラッシュ、エレベーター等、我々の周囲では常に雑踏状態が発生している。

 

(2)雑踏の特色

ア 不特定多数人の集合体 

 年齢、性別、思想等様々であり、集団としての性格も複雑で、これを秩序づける組織も権威も存在しない。

イ 個々人の信仰、慰安、娯楽等を目的とした集団

 労働運動、政治運動等、同一の主張を掲げてその貫徹を図るとか、同一意義の下に集合して気勢をあげるといったことを目的とする集合とは異なる。

ウ 人の集合が事前に予測可能

 雑踏の多くは、恒例的、年中的な行事に関連して、早くから予測可能である。しかし、今後はIT社会を反映し、インターネットを通じた呼びかけによる多数人の集合事案が突如発生することも予想される。

すでに「雑踏とは何か」ここまで言語化されていたのですね。

 

規模については、「どれ位からを"雑踏"と呼ぶか、その判断は困難であるが、雑踏の規模、形態に応じて、的確な措置が必要である」とのこと。

 

 

*雑踏警備の事例の記録*

 

 

「第5章 雑踏事故の実例」を読むと、さらにもっと長いこと事故事例を検討してきた歴史があるようです。

 

雑踏事故の実例

 過去の実例によると、日本で一番大きな被害が出たのは、昭和31年の元旦、新潟県弥彦神社で発生した群衆事故である。このときの死者は124名、負傷者177名であった、これ以外にも、昭和9年1月8日、京都駅の跨線橋で発生した事故(死者77名、負傷者74名)、昭和29年1月2日、皇居の二重橋で発生した事故(死者16名、負傷者30数名)、昭和27年6月18日、日暮里駅の跨線橋で発生した事故(死者6名、負傷者7名)などがある。

 これらの事故の共通点は、理由はともあれ局所的に高密度の場所で発生していること、それと関係して発生場所が、階段、ブリッジといった逃げ場のない閉所空間で発生していることである。

 他にも雑踏事故は数限りなくなり、昭和51年12月21日、ジャンボ宝くじの発売をめぐって福岡、松本、大阪など全国的に発生した事故、平成2年1月6日、大阪のライブハウスで発生した事故、平成7年12月24日、大阪と札幌の場外馬券上で発生した事故など枚挙に暇がない。

 世界的には1990年7月2日、サウジアラビアの聖地メッカで発生した事故が最大で、死者数は1,426名であった。この事故は巡礼者を通す歩行者用トンネル内(長さ約500メートル、幅20メートル)で発生したもので、トンネル内が停電したためエアコンと照明切れでパニック状態になり、酸素不足と高温が犠牲者を増やす原因となった。

 

国内の雑踏事故の一覧がありました。

まさに「年齢、性別、思想等様々であり、集団としての性格も複雑で、これを秩序づける組織も権威も存在しない」ですね。

 

ここ最近の話ではなく20世紀中頃からの大規模な事故が記録され、想像以上に長い期間をかけて再発防止のための検討が積み重ねられてきた歴史があるようです。

 

 

*「雑踏警備の主眼」*

 

今回のハロウィンの呼びかけに対しても、自治体がそこまでするのはどうかといった反論も見かけました。

 

ア 雑踏警備の主眼

 参集者の利便を尊重しつつ、雑踏による混乱を適切に整理して事故を未然に防止することにあるが、事故防止を優先するあまり警備上の利便のみに気を奪われ、行事への過度の干渉、参集者の願望を無視するなどの行き過ぎは慎まなければならない

 近年、暴走族や暴走期待族が祭礼現場に乱入したり祭礼行事終了後に道路や歩道を占拠し、警察部隊への投石、公共施設の損壊等不法行為が目立つこともあり、やむを得ず、住民や自治体と共に、行事のあり方についての検討も必要である。

(同 「第2章 基本的事項」、強調は引用者による)

 

今年の対応はそうした反論が出てくることも想定した上で相当の準備がされ、過去に学び事故防止のためのリスクマネージメントの歴史が生かされたように思えました。

 

 

 

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