これはないと思う 「助産雑誌 9月号」 その2

助産雑誌 9月号」は、「事例検討から学び、活かす」という特集でした。
助産雑誌」医学書
http://www.igaku-shoin.co.jp/jurnalPortal.do?jpurnalPortalId=665


お産の経過はどれひとつとして同じものはないことは当然です。
「こんな進みかたがあるのか」という経験を重ねることで、慎重でより的確な分娩予測ができるようになるのだと思います。


そして自分の体験だけでなく他の事例を知ることも経験知を広げることになり、ひとりひとりのお産の違い、個別性に対応する能力を伸ばすことになることでしょう。


また事例検討は視野を広げる機会であるとともに、そこから一般化できること、つまり法則性のようなものを学ぶ機会でもあると思います。


<自宅分娩からの搬送>


自宅分娩を請け負う出張助産師とその嘱託医療機関との定例の事例検討会について紹介されています。


「これはないよなぁ」という感想が多かった9月号の中では、「こういう情報を知りたかった」と思えた内容でした。


第一子、第二子ともに自宅分娩した産婦さんの3回めの自宅分娩で、分娩停止になり嘱託医に搬送して吸引分娩になったケースと、初産と思われる産婦さん(本文中に初産・経産の記載なし)で破水後分娩遷延、破水後40時間を自宅でみた後に嘱託医へ搬送し、回旋異常で帝王切開になったケースの事例検討です。


分娩経過と判断については、その場にいた助産師でなければわからない葛藤があります。ですから、個々の事例に関して判断の是非を問うのではなく、何を次に活かすかが大事だと思います。


事例検討のまとめは、そういう視点が明確にされていました。

<分娩遷延における搬送のタイミングとしての要因>
(中略)
また、妊婦の肉体的・精神的ストレスの遷延にも配慮が必要です。母体が著しく疲労すると、弛緩出血や母乳哺育への支障が心配です。
分娩のスタイルにこだわるばかりに、産後に支障をきたすことがあってはなりません。
搬送のタイミングは非常に難しい問題ですが、母子の安全に直結するため、助産師は常に冷静で客観的な判断をすることが大切です。


私自身は医師がいない場で助産師だけで分娩介助をすることはなくしたほうが良いと個人的には思っています。
ただ、このように搬送先の医療機関からの厳しい指摘をきちんと受け止められる関係ができているのであれば、それはよいことだと思います。


そしてこの2例を読んだだけでも、やはり「お産はおわってみないと正常かどうかわからない」ということにつきると思います。


<分娩時血圧上昇で全開後16時間>


この小見出しを見ただけで、産科関係者なら自分の血圧が上がりそうですね。


吉村医院の事例検討です。


「全開後16時間」というだけでもそれはどうかと思うところですが、分娩時開始後から血圧が140〜150/90〜台に上昇して時々頭痛の訴えもあった産婦さんです。


「分娩所要時間77時間18分(分娩第1期61時間05分、第2期16時間07分、第3期06分)」とあります。
その経過をちょっとまとめてみます。

陣発で夜中の2時に入院、その日の夜8時には9cm近くまで開いたところあたりから血圧が高めになり、頭痛の訴えもあります。
ところが9cmからなかなか進まないまま一晩を過ごしています。
翌朝(入院後2日目の朝)、拡張期血圧が90以上になっていますが、陣痛促進のためのスクワットや散歩をさせています。
9cmのままで一晩経過。
さらに翌朝(入院後3日目の朝)は「古屋での労働を勧める」とし「古屋でスクワット1時間」と記録があります。
ようやく3日目の朝10時に全開。
その後、陣痛が弱いので「スクワットや階段昇降、古屋などを勧める」とあります。
そしてようやく入院4日目の朝4時に児娩出。

あぁ、ほんとうにお母さんと赤ちゃんが無事で良かったと思います。
子癇発作や脳出血、あるいは産科DICを起こさなかったのは運が良かったの一言につきると思います。


さてこの事例検討の主眼は何かというと、「待つお産」の検討だそうです。
反省点は、「血圧上昇、頭痛出現時に散歩を行ったことに対して、散歩前に診察を受けてリスクの評価を行う必要があった」という記述のみでした。


ほんとうにこれはないよなぁ。
これを助産雑誌に掲載する編集意図ってなんなのでしょうか。


<開業助産師とのオープンシステムの検討会>


長くなりますが、もうひとつご紹介します。
「院内助産とは 9」http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120714で紹介した資料の葛飾赤十字産院の検討会です。


「開業助産師が当院の分娩室を使用し、出産の介助を行う」オープンシステムを取り入れている産院です。
「利用者のうち約30%はローリスクからハイリスクへ移行している」そうです。


その中で「分娩進行時、ハイリスクに移行し説明するも医療処置を拒否したケース」について検討会を開いた様子が紹介されています。


その中の開業助産師の発言です。

開業助産師B
最近は「自然なお産はいい」ということばかりに意識が行き、お産はいいことばかりではないという現場の状況を知らずにいる人も多い。

開業助産師C
以前に医療拒否の事例を経験したが、分娩期の異常に際して医療を拒否する産婦は、凝り固まった考えを持っている傾向がある。


これはないよなぁ、です。
そんな妊産婦さんに誰がした、と思うのですが。