医療介入とは  91  <CTGに対する看護技術化の変化>

「医療介入とは 10 <CTGの普及と助産婦の『自然なお産』の時間的なずれ」で、CTGがいつ頃からどのくらい普及したかについて書きました。


1980年代半ばから急速に普及しましたが、1993(平成3)年の時点では病院では92.6%に対し診療所ではまだ63.7%でした。


この数値はあくまでも設置状況ですから、CTGを所有していても分娩時に使用していない施設もあったことでしょう。
あるいは、まだ高額なので分娩件数が多い施設では、全分娩に装着するだけの台数がなかった可能性もあります。


現在の設置状況の統計はわかりませんが、分娩を取り扱う病院・診療所では100%ではないかと思います。というのも、CTGは2009(平成21)年度に始まった産科医療制度の原因分析には欠かせないデーターのひとつであるからです。


助産所での設置率はわかりませんが、助産所産科医療補償制度に加盟する流れの中、近い将来には助産所も設置することが当たり前になることでしょう。


まぁ、あくまでも「設置」なので、実際にどの程度使うかどうかというところが問題なのですが。


<30年間のCTGに関する看護技術の変化>


前回の記事で紹介したコトバンクの「技術」には、以下のように書かれています。

各分野で目的を達成するための技能、手順(技法)、道具および知識の体系のことをいう。


分娩時の看護の最大の目標・目的は「母子ともに安全に分娩が終了すること」です。


その目的のために、「技能・手順・道具および知識の体系」は実際にどのように変化してきたのでしょうか?


こちらの記事に書いたように、1980年代終り頃の助産師教育で使われた教科書には、「MEの発達により、陣痛計と胎児心拍数計を取り込んだ分娩監視装置が多くの施設において臨床での検査に使われる」としつつ「分娩監視装置は分娩第2期の全産婦に装着することが望ましい」とあります。


冒頭の設置率から見ても、まだ分娩進行中のCTGの使用は必須の時代ではなかったことがわかります。


その後、CTGも当然設置する時代になり、全ての助産師がCTGを学んでから卒業する時代になりました。


では、CTGの看護技術はどれだけ高められてきたのでしょうか?


最近の教科書は見ていませんが、写真が多く初学者にはわかりやすい「写真でわかる助産技術」(平澤美恵子・村上睦子氏監修、インターメディカ、2012年)を参考にしてみます。


「入院時の観察とケア」の中に、「入院時 胎児心拍モニター」として2ページほど書かれています。


写真がほとんどですから、説明文はわずかしかありません。

入院時に最初に行う胎児心拍モニター(admission test)は、胎児予備力の目安になる。
入院時にはできるだけ速やかに装着する。

たしかに、30年前の「CTGは必須ではないが、あれば装着する」時代の教科書では、入院時の看護にはまだ「CTGを装着して胎児予備能力の目安」を確認するということは書かれていませんでしたから、看護技術として確立されたといえるでしょう。



実際の装着に関しての技術は、「児心音計にゼリーをつける」「児心音計、陣痛計を装着」「収縮計の補正、音量の調整」しか書かれていません。
これは技術の中の「手順」に過ぎないものです。
しかもそれぞれ1文だけの簡単な説明に終わっています。


最後に「checkpoint モニターの情報は、産婦と共有」として、以下のようにかかれています。

助産師がモニターに視点を置き、産婦の全身を視野に入れていないと、情報収集の範囲が狭まってしまう。産婦や家族にも、モニターに表示される数値、アラームについて説明し、産婦が自らの出産を助産師と共有し、前向きに受け止めるようガイドずる。

おそらくこのあたりが「器械だけを見て、産婦をみない(病院の)助産師」の批判を強く意識したところではないかと思います。


それでも、「CTG装着の意味を産婦さんに説明する」ということが手順としてしっかり認められる時代になったとはいえるでしょう。


また、分娩進行中の観察の中では、座位、膝手位(四つんばい)、側臥位(横向き)で「胎児心拍モニターを用いる」として、コツのようなことが少しだけ書かれています。
このあたりは「産婦さんが自由な体位をとれる」ための看護ではあるのですが、むしろ「動き回るほうがお産が進む」「動き回るほうが主体的なお産」という助産師側の信念のようなものを感じ取ってしまうのです、私には。


一見、CTGの看護技術は発展しているようで、実は「自然なお産」「主体的なお産」という思い込みに強く囚われた結果の技能(テクニック)に過ぎず、臨床で助産師が実際にCTGの装着方法で苦闘し、正確な観察にヒヤヒヤしドキドキしてその体験から得た「知識の体系化」がまだまだ遅れてしまっていると思うのです。


まぁ、参考にした本の副題が「妊産婦の主体性を大切にしたケア、安全で母子に優しい助産のわざ」なので、仕方がないかもしれませんが。


もう少し続きます。