お産に対する気持ちを考える 7 <無痛分娩に対する「思想的違い」?>

助産師の中(いえ産科の先生方も)には「自然なお産」とあえて括弧をつけるような出産方法が絶対によいとまでは思わなくても、できるだけ「手をださずに(医療介入をせずに)」「待ったほうがよい」という自然な経過を大事にしたいという思いがあると思います。


それは、私の中にもあります。


ただしすべてのお産にそれが言えるわけでもなく、様子をみて待ったほうがよい場合と早めに医療介入したほうがよい場合について、まだまだ自分の中でもその経験を言語化できていないのです。


それは多くの助産師がそうではないかと思います。
はっきり断言できるほど一般化できない部分で悶々とし、医師との判断との違いに悩み、ひとりひとり違う産婦さんの思いや不安の間で葛藤している。


そのうまく言えない思いを一言で表すと、自然に待ったほうが良いのでは・・・という漠然とした不安の表現になるのではないかと思っています。


医療介入をすることに伴うリスクとを天秤にかけると自然に任せたほうが・・・、という感じでしょうか。


助産師が「自然に」という背景にも、言葉にならないいろいろな思いがあります。


<「思想の違い」に答えを出そうとしないで>



さて何度も批判の矛先を向けて申し訳ないのですが、「助産雑誌」2011年5月号は「特集 硬膜外麻酔分娩について知ろう」でした。


産科麻酔を実践している麻酔科医や実施施設に勤務している助産師、あるいは無痛分娩を選択した母親の体験など、特集の構成としてはバランスがとれてると思いました。


ただ「陣痛の過ごし方、それぞれの立場から」というパネルディスカッションについては、こういう記事が「無痛分娩に否定的な助産師」対「医師」の思想対立があるかのような認識を広めてしまうのではないかと危惧する内容でした。


これは2011年11月に京都の足立病院主催で開かれた講演会とパネルディスカッションをまとめたもののようです。


司会者は出産ジャーナリストの河合蘭氏、パネリストは照井克生氏(埼玉医科大学、麻酔科医)、畑山 博氏(足立病院院長、産科医)そして左古かず子氏(あゆみ助産院院長)です。


あれーー、なんで助産所助産師だけが助産師の代表として発言しているのだろうという違和感というかがっかり感がありました。


もちろんパネリストの選出も主催者側の足立病院によるものでしょうから、それに関しては「助産雑誌」編集部の責任ではないでしょう。


さて、その左古かず子氏の発言についていくつかひろってみます。

私が介助させていただいた方は助産院の880人と病院勤務時代を合わせると1800人ぐらいにのぼります。その結論からですが、無痛分娩は基本的には必要がありません。

あゆみ助産院のHPを見ると、1980年代後半に開業して2010年には分娩の取扱いを中止されたようです。
病院勤務時代のご経験は、日本でも無痛分娩が稀少だった時代です。
また助産院の23年間で800例ということは、年間40件弱の分娩取扱い数ですし、異常な経過(つまり無痛分娩が有効なお産)は搬送されていたことでしょう。


もし、無痛分娩を積極的に勧めている施設に勤務している助産師がパネラーとして招かれれば、このシンポジウムはもっと違った方向になっていたのではないかと、この発言ひとつを見ても思います。


もう少し発言をひろってみます。

私自身は助産師として、産婦さんに常に「あなたは、必ずお産を乗り越えられますよ」と伝えることに取り組んできました。

私は、お薬をいろいろと使わなければならないということは、ケアが足りない代わりに使うことが多いような気がしてならないのです。

そしてまとめの発言ではブラジルの例を出しながら以下のように述べています。

10年ぐらい前にブラジルに行った時、日本ではたくさん自然分娩があると言いましたら大変なブーイングになり、「それは日本人だからだ」と言われたのですね。でもブラジルは帝王切開が99%という病院もある国で、陣痛が来ても痛みを誰も分かち合ってくれなくて、1人ぼっちで産んでいたのです。そういう国でもお産の方法を変えたら変化が起きました。かなりの人が自然分娩をしているようです。

おそらくこれはJICA(国際協力機構)の人間らしい出産プロジェクトの見学をしての感想ではないかと思われます。


しかし、帝王切開率が世界の中でも非常に高い国であり、貧困格差、多民族国家の統治の難しさなど、日本にはない背景が医療問題の裏にある国ですから、単純に比較もできないことでしょう。

女性の産む力は私たちが一生懸命ケアを尽くせば出てくるものだと確信しています。

パネリストの助産師が偏っていても、このシンポジウムを記事として紹介した「助産雑誌」の編集意図はこの一言に尽きるのではないかと思います。



臨床の多くの助産師は、「女性の産む力」のようなキャッチコピーでは問題解決はしないことを痛感していると思うのですが。


こうして無痛分娩についても、ごく一部の助産師の思想に焦点が当てられてしまうとますます現実の問題解決が遠ざかってしまうことでしょう。




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