動物園や水族園や植物園に行けなくなってもう1年以上が過ぎました。
途中、都立の施設も予約制で入れる時期もあったのですが、やはりふらりとその日の気分で行くのが楽しかったのかもしれません。
ただぼーっと動物や魚や植物を前にたたずんでいるだけで、なんだか自分の悩みとか気分の落ち込みなんてちっぽけだと励まされていました。
そして、いつの間にかさまざまな動物の無心に食べる姿を観察していました。
あたりまえのように今食べている、そこに至るまでの変化に、またわからないことだらけで打ちのめされそうになります。
それぞれ、どうやって食べることや消化することを獲得してきたのだろう。
シャンシャンに初めて会いに行ったのは、1歳になったばかりの頃でした。
動けるようになるまで数ヶ月かかったり、離乳もゆっくりだというパンダの生活史を少しずつ知る機会が増えました。
最近のシャンシャンは竹やサトウキビを頭頂部の筋肉を動かしながらバリバリと食べていて、1歳近くからようやくリンゴや竹をかじるようになったとは思えない成長です。
あるいはコアラのように、生後22〜30週で母コアラの盲腸で作られる柔らかい食べ物で、母コアラのミルクからユーカリの葉へ離乳することも、また驚きですね。
乳汁だけだった時期から、どうやって他の食べ物を食べ、消化していくようになっているのでしょうか。
*「補完食」という表現のゆくえ*
こうした哺乳類の乳汁から他の食物への変化は、「離乳」と表現されても違和感はないことでしょう。
ところがヒトの場合、補完食という表現を、「母乳育児」という言葉の広がりとともに耳にするようになりました。
世界保健機構(WHO)はいわゆる「離乳食(weaning foods)という表現に対して、「補完食(complementary foods)]という表現を提唱している。これは母乳育児期間に母乳以外に摂取する栄養は母乳に置き換えられるものではなく、補助・補完するものであるとの考え方に基づいている。
この定義だと、出生後から混合栄養の赤ちゃんはすでに「補完食」が始まっているという意味になり、今までの消化能力の発達の観察に基づく「離乳」という表現とは全く異なるものです。
さて、「WHOが提唱した補完食」はその後、どうなったのでしょうか。
WHO/UNICEFのプレスリリースを読み返して見ました。
相変わらず「完全母乳率を2025年までに半数に引き上げる」(2017年8月)とか「母乳育児を守る」(2018年4月)といったプロパガンダ的な表現がところどころにありますが、「離乳食」は使われていても「補完食」は見当たりませんでした。
やはり「離乳食」という言葉の方が、今のところ哺乳類の食物摂取の段階の本質をとらえた表現かもしれませんね。
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いつの間にかなぜヒトの授乳に関する記事がこんなに増えましたが、授乳から離乳して食べ始めるまで、こんなにややこしくなってしまったのか。
それは1970年代に「母乳をあげ続けたいから社会が理解してほしい」と始まった運動だったのに、思えば遠くにきたものだという感じですね。