事実とは何か 112 東京都の「無痛分べん」のアンケート

10月8日、東京都が無痛分娩に補助をするためのアンケートのニュースがありました。

たしか6月の東京都都知事選の公約で、突如として出てきた話でした。現場では「寝耳に水」ってやつですね。

 

東京都「無痛分べん」の実態把握へアンケート調査開始

NHK 首都圏 NEWS WEB、2024年10月8日)

 

 東京都は、麻酔を使って出産の痛みを和らげる「無痛分べん」の実態を把握しようと、対象となる医療機関に実施件数や体制などを訪ねるアンケート調査を始めました。

 「無痛分べん」は、麻酔を使って出産時の痛みを和らげるもので、小池知事は都知事選挙の際、「無痛分べん」の費用助成に取り組むことを掲げていました。

こうした中、都は、無痛分べんの実態を把握しようと、都内の対象となるおよそ160の医療機関にアンケート調査を行っています。

アンケートでは実施件数や医師や助産師などの体制、それに費用など、およそ60項目を尋ねています。

日本産婦人科医会の調査によりますと、すべての分べんのうち、無痛分べんで出産した人の割合は」おととし全国で11.6%となっていて、5年前の5.2%から倍増しているということです。

東京都保険医療局の佐藤大輔担当課長は「出産時の痛みによって『産めない』ということならひとつの選択肢になり得ると思うが、まずは医療機関の体制を確認して、どれくらい安全性が確保できるかを把握したい」と話していました。

(強調は引用者による)

 

この数日前にようやく麻酔薬の不足がニュースになっていましたが、都知事選の頃からすでに無痛分娩に使用する薬品は出庫調整が続いていました。

無痛分娩数を増やすどころじゃあない現状ですけれど。

 

無痛分娩を希望される方は妊娠する前から「無痛でなければ」と分娩場所を考えるほど決心が固い方が多い印象なので、「薬がなくて対応できません」ということは避けたいのですけれど、麻酔薬以外でも医療機関からものがなくなる混乱は数年前から続いていて、さらに新型コロナへの対応で分娩施設自体の体力が弱っているのに「いつもの安全性と快適性」を求められている状況に、誰がどんな思惑でこんなことを言い出したのでしょうか。

 

政治家や公務員もどういう経緯で誰が政策の企画立案してきたか、こちら側が追跡できるようにしてほしいものです。

都知事選の選挙協力と引き換えの何かが蠢(うごめ)いているとかは、まさかないですよね。

 

 

*もう一つ、何かが蠢いている感じ*

 

そのニュースの画面にアンケートの実際の内容がチラッと映っていたのですが、また「あ〜あ」となりました。

助産師の体制」として「アドバンス助産師が何人いるか」と書かれていました。

 

助産師の世界の歴史を東京都もNHKも知らないのか、それともあえてそちら側に近いのか。

事件や災害のニュースでは信頼性があるNHKなのに、なぜか助産師についてとか出産とか子育て関連ではどんな力関係でこの話題を出すのだろうと思うことが多いですからね。

 

 

*今後のためのニュース記事の記録*

 

この件の時系列の整理のために書き留めておきます。

小池百合子都知事が助成公約の「無痛分娩」、国内は増加傾向 母体にメリットとリスク

産経新聞、2024年6月18日)

 

 東京都の小池百合子知事が18日、知事選(20日告示、7月7日投開票)の公約発表会で、無痛分娩(ぶんべん)の助成制度創設に言及した。少子化対策の一環として一部の自治体で導入例がある一方、母体には一定のリスクもある手法で、利用促進に向けては正確な情報発信も重要になる。

 

痛みないと愛情湧かない・・・偏見が壁に

 無痛分娩は、陣痛や分娩の痛みを麻酔で和らげる手法で、痛みを脳に伝える脊髄に近い「硬膜外腔」に細い管で麻酔薬を注入するのが一般的。正常分娩の費用にプラスする形で、10万円〜20万円程度の追加負担を求められるケースが多い。

 無痛分娩は体力の消耗が少なく回復も早いとされ、心臓や肺の調子が悪かったり、血圧が高かったりする妊婦にメリットがある。

 一方で、麻酔の誤注入や効き過ぎにより、低血圧や呼吸停止などの副作用が生じるリスクもある。

 厚生労働省の令和2年9月の調査では、国内での無痛分娩は505施設(全分娩取り扱い施設の26%)で実施され、実施率は全分娩の8.6%。平成28年の実施率(日本産婦人科医会調査)は6.1%で、このところは増加傾向にあるが、フランスでは8割超、アメリカでも7割超といったデータがあり、海外に比べるとまだ浸透していない。

 背景には、産科医や麻酔科医不足など態勢面、自然分娩より高い費用面のほか、「痛みに耐えることが美徳」「痛みが伴わないと赤ちゃんへの愛情がわかない」といった偏見の存在を指摘する声もある。

 

「あの痛みはもう・・・」町民の声きっかけに

 群馬県下仁田町では、県内では最も早い平成29年4月から、無痛分娩費用の助成(自己負担額の2分の1、上限10万円)を始めた。当時、再度の出産を検討していた町民から「出産時のあの痛みを思うと、もう産みたくない」との声が寄せられたことがきっかけだったといい、町担当者は、「痛みによって出産をためらうことがないよう、選択肢を増やすという考えに立ち、制度が始まった」と説明する。

 出産費用を巡っては、政府は正常分娩での費用に令和8年度から公的医療保険を適用し、自己負担を求めない方向で検討を進めている。現状は医療機関ごとに価格を自由に設定でき、全国平均は約50万3千円(5年5月時点)。子供を産んだ人に支給される「出産育児一時金」50万円でまかなえるが、地域差が大きく、東京都など大都市圏では自己負担が生じることも多い。

 無痛分娩でも現状は保険適用外。こうした状況に照らしてか、小池都知事は18日の会見で、知事選公約に無痛分娩の助成制度の新設を掲げ、子育てに「お金のかからない東京を目指す」などと述べた。

(強調は引用者による)

 

ああ、いつの間にか元首相の思いつきで始まって「議論を進める」になり、さらに「検討を進める」になってもう既成事実になってしまいましたね。

だから骨太のイデオロギーは怖いですね。

 

出産やがん治療での使用の麻酔薬が不足 影響広がる

NHK NEWS WEB、2024年10月2日)

 

出産やがんの治療などで使われている麻酔薬の出荷が制限され全国の医療現場で不足する事態となっています。通常に戻るめどは立っていないということで、厚生労働省や学会は薬の使用に優先順位をつけたり使用量を減らしたりするよう呼びかけています。

薬の販売会社「サンド」によりますと、この会社が扱っている局所麻酔薬「アナペイン」の出荷をことし6月から制限しています。

製造を行っている関連会社が製造所を海外から国内に移そうとしましたが、ことし4月に技術移転に時間がかかることが明らかになり国内での製造が延期されたためだということです。

会社は在庫を取り崩して対応していますが、出荷できる量は限られ「極めて厳しい状況だ」としています。

「アナペイン」は出産やがんの治療などで広く使われていて、全国の医療現場で不足する状態となっています。

厚生労働省や日本麻酔科学会などは「アナペイン」の不足でほかの麻酔薬の供給も不安定になっているとして全国の医療機関に対して治療が必要な患者の優先順位を策定することや薬の使用量を減らす工夫をすることなどを呼びかけています。

 

会社はNHKの取材に対して「医療関係者や患者の皆様にご迷惑をおかけし、申し訳ございません。1日も早く通常出荷を再開できるよう、鋭意取り組んでおります」と話していて、国内で製造を始めるめどは立っていないということです。

 

別の麻酔を小分け 必要な分を確保する医療機関

「アナペイン」が不足している影響で、都内の医療機関では別の麻酔を調達したうえで小分けして必要な分を確保するなど対応に追われています。

 

東京・中央区にある国立がん研究センター中央病院では、がんの手術に「アナペイン」を使っています。

ところが出荷制限でことしの6月頃から減少し始め、8月になってからはほとんど入荷しなくなりました。

このため臨床試験や大腸がんの手術に使用を限定しているということです。

「アナペイン」を使っていたほかの手術については別の麻酔で代替することにしましたが、その麻酔も需要が増え入荷量が少なくなっているということです。

 

このため衛生上の理由で1回使用したあとに余った分を廃棄していた手順を見直し、薬剤師が毎朝、使用する前のパックから無菌状態で注射器に小分けし、むだが出ないようにしています。

こうした努力を続けていても早ければ12月には在庫が底をつき、手術の延期などを検討せざるを得なくなる可能性があるとして不安を抱えています。

橋本浩伸薬剤部長は「このままだと医療が続かなくなるおそれもある。1日も早く安定した供給が再開することを心から願っています」と話しています。

 

産婦人科では無痛分べんにを制限する可能性

「アナペイン」が不足している影響で、産婦人科の中には出産の際に麻酔で陣痛を抑える無痛分べんに応じきれなくなることを心配する声も聞かれます。

東京・世田谷区の産婦人科クリニックでは、毎年およそ500件の分娩を扱っていて、このうち出産時の痛みを抑える無痛分娩は9割以上にのぼっています。

無痛分べんには「アナペイン」を使用していて、これまでは注文から数日以内に納入されていましたが、ことしは5月ごろから滞り始め1週間ほど遅れることもあるということです。

また、代替の麻酔薬も仕入れが難しい状況が続いているということです。

このためクリニックでは、患者ごとに使用する麻酔の量を予想してむだを無くすようにしていますが入荷の状況がさらに悪化した場合、無痛分べんを制限せざるを得なくなる可能性があるとしています。

東京マザーズクリニックの林聡院長は「いつまでこの状況が続くのか心配だ。今使っている薬剤がなくなれば妊婦に迷惑をかけてしまうので早く通常通りに戻ってほしい」と話しています。

 

日本産科麻酔学会「不安にならず待ってほしい」

「アナペイン」が不足していることを受けて、日本産科麻酔科学会は産婦人科に対応策を周知するとともに妊婦に対して不安にならないよう呼びかけています。

日本産科麻酔学会の照井克生理事長によりますと「アナペイン」は胎児への影響が少ないことから、無痛分娩に使用されることが多いということです。

代替案もありますが、需要が増え入手が難しくなっているということです。

このため麻酔薬を使用する手術などに優先順位をつけるよう呼びかけています。

また、無痛分べんの際に、少量の鎮痛薬と組み合わせることで「アナペイン」を節約するよう求めています。

8月にジェネリック医薬品として承認されたため、今後他の会社が発売するという情報もあるということで、照井理事長は「出産を控えた方はいたずらに不安になることなくお待ちいただきたい」と話しています。

 

 

「公約」ってなんだろう

 

それを発表する前に、先にはばひろく現場の話を聞いてくれたらよかったのに。

今、麻酔薬どころか、抗生物質などが手に入らなくてとても困っています。

その原因(失敗)から再発防止を考えて、安定した医療体制を維持するのが政治家の皆さんのお仕事だと思うのですが。

 

 

 

 

 

「事実とは何か」まとめはこちら

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新型コロナについての記事のまとめはこちら

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